長條さん

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「ナイスキー!」 このスパイクを打った女性の腰ぎんちゃくたちの大声が響いた。 しかし当の本人は面白くなさげに凜を軽く睨みつけている。 彼女の名前は月島(つきしま)(はる)、元エースだった人物だ。 現在は裏エースである、エースの座をおろされた理由はもちろん凜である。 なので人一倍プライドの高い月島は岬以上に凜を疎ましがっていた。 そしてそのせいでこのバレーボール部にちょっとした波乱が生まれてる。 迷惑な話だ、と岬は思った。 「岬、次何打つ?クイック?」 「うん、お願い」 コートの真ん中、つまりセンターに立っていた岬は宏美の問いに対してそう答えた。 アタックラインぎりぎりに構え、球出し係がボールをトスした約1秒後にステップを踏んだ。 宏美の指にボールが触れる直前、岬は跳んだ。 岬はジャンプ力はないが、アタッカーに必要な身長を持っていた。 170センチの身体から伸ばされた腕は、高い打点でボールを捕らえる。 岬の掌に鈍い衝撃が走った後、ボールは地面にぶつかり跳ねた。 「ナイスキー!調子いいね岬!」 「ありがとう」 笑顔でそう言ってくれた宏美に岬も笑顔で応えた。 岬のアタックにはパワーはないが、高さを活かした鋭い角度のスパイクは中々に脅威だった。 「次行くよ!」 キャプテンの檄が飛び、部員たちは「はい!」と威勢のいい返事をする。 返事をしないのは凜と春だけだった。 私はこれからの苦悩を想像しながら、球出しの列に並んだ。
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