長條さん

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「…意外だ」 「え?」 「神宮さんは…みんなと仲良くするのが好きだと思った」 「仲良くするのは嫌いじゃないけど…まあ大人になっていくにつれて人間関係は難しくなっていくからね」 「…よく知ってる」 「だよね」 凜は遠くを見つめるように横断歩道の赤信号を見つめていた。 岬はそれを見て語を次いだ。 「私ね、昔はけっこうおてんばだったんだよ」 「それいつの言葉?」 「いいでしょ、みんなを仕切ったりしてね、男子を蹴飛ばしたりしてた、体も大きかったし」 そう言って岬は笑った。 「そうだったんだ」 「そう、今はそんなことはしないけどね」 「私は…」 凜は言い淀んだ。 「なに?」 「私は神宮さんと違ってあまり人と付き合うのは苦手」 「そっか…」 「でもあなたとなら上手く話せそう…」 そう言った凜の顔は赤みがかっていた。 日に焼けた肌でも分かるくらいに。 「ありがとう…長條さん」 岬はもう1度抱きしめたい欲望を抑えて、その言葉だけを発した。 照れたように凜は前を向く。 「ねえ神宮さん…」 「なに?」 凜は顔をしかめて、意を決したように岬に問うた。 「私って…臭いのかな?」 岬は困ったように笑った。 「…どうして?」 「月島さんが言ってたし…私は自分ではわからないから単なる月島さんの意地悪かなって思ってたんだけど…」 岬は迷ったが真実を教えてあげることにした。 「うーん…そうだねぇ、ちょっと汗臭いかもしれないね」 「そっか…」 凜は今まで見せたことない落胆の様子を見せた。 「でもしょうがないよ、部活した後だからみんな臭くなるんだ、だからその後どうするかだよ」 「うん…」 「…長條さんってそんな顔するんだね」 さらに落胆の表情を見せる凜に岬は言った。 凜は力なく「うん」というだけだ。 「前の部活で言われなかったの?」 「うん…陰口は言われてたみたいだけど、みんな直接は言わないから」 「そっか…あんまり自分のこととか頓着しないタイプ?」 「今までバレーのことしか考えてこなかったから…そういうことは」 確かに凜の顔には化粧の類をした形跡はない。 岬でさえ多少のそういったことに対する関心はあるのに、彼女にはなかった。 「これあげる」 岬はカバンからいつも使っている清涼剤を凜に手渡した。 「…これは?」 「それ体に塗って、そしたら臭いも消えるから」 岬は凜に対して微笑んだ。 「…いいの?」 「うん、使って、私こういうのいっぱい持ってるから」 「ありがとう…何かお礼しなきゃ」 「お礼なんていいよ…そうだ」 岬の脳裏にある考えが浮かんだ。 「明日一緒にお昼ご飯食べよう、それがお礼ね」 凜はびっくりしたような顔をして言葉を発した。 「わかった…でも」 「でも?」 「神宮さんと2人きりでお願い…ほかの人と喋るのはちょっと」 「…りょーかい!」 岬は微笑みながらそう言った。
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