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「あぎ、あがぁあああああああッ!!」
少女の絶叫が俺の思考に突き刺さる。
少女の左腕を押さえているゴブリンが剣などまともに握ったことも無いであろう手の平ごと地面に短剣を突き立て腕の自由を奪っていた。傷口から溢れる血が周囲の草を緑から赤へと変えていく。
痛ましい傷口からとめどなく流れていく血を見た時に、俺の中の何かがカチリと嵌った音がした。
「……なあおい、ゴブリン共。言葉が分かるかどうかどうでもいいけど、一つ言わせてもらうぞ」
ぎり、と地面を掴む手に力が入る。
俺を組み伏せている個体が小さく喚き、俺の血濡れた頭を掴み地面に押し付ける。
そのゴブリンの片手には短剣が握られているのか見えない首筋にひやりとした感触を感じる。
「多分だけど、俺は禁煙とかできないタイプだわ。いや、煙草吸った事ねえんだけどさ」
頭に掛かる重圧が増し、短剣の切っ先が喉元を撫でる。
「俗に言う異世界転生? 生まれ変わった訳じゃないから転移か? まあ、それは置いといてこれが丁度いい機会だと思ってさ…………控えようとしてたんだよ」
頭上でのゴブリンの喚き声が一段と荒くなる。
「ゲゲッ」
短い鳴き声の直後、左肩の辺りに激痛が走る。痛ってえなこの野郎。
でも。
「それをお前らは揃いも揃ってよお。禁煙中の人間の前でぷかぷか煙吹かす様な真似しやがって……いい加減我慢の限界でな。後ついで教えといてやるけど、それくらいの刃渡りのナイフじゃそこ刺してもしこたま痛くて血がでるだけで大事な筋も無事だし腕も問題無く動かせる。本当に殺したいならどうするか」
俺ならこうする。地面を強く握りしめていた手を少し浮かせ、背にいるゴブリンの視線の高さと同じに持ってきた。
そして、ぱちんと指を鳴らした。
「ギ……?」
ふと思わず、そんな風な仕草で音を発した手先を注視したゴブリンに向けて握り込んでいた手の中身を至近距離から投げつける。その中身は土、地面に倒れ組み伏せられいる間に用意しておいたものだ。
「ギ、ギギィッ!?」
眼球目がけて異物が飛んできた時の行動は人間もゴブリンも大差がないみたいで。両目を閉じ片手で顔を覆ったそいつは一瞬だが確かな隙を晒す事になった。
それで十分。
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