初めての町

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「ごめんくださーい」 受付の様なカウンターに人影はない。奥にいるかもしれないと声をかけてみるが反応も無い。 「留守……っすかね?」 「鍵は開いてたし、それはないと思うけど」 その時、カウンターの奥でガラスの割れる音とそれに続いてガタガタと何かが倒れる音が聞こえてきた。 「…………」 「…………」 俺たち二人が息を潜めてカウンターの奥を見据える。そこに――――――― バンッ、と下から伸びてきた細い手が木製の受付台を叩きつける。 「ひぃ!?」 思わず大きく後ずさるカリン。いや、俺も内心結構ビビったけど。そうこうしている内にもそもそとした緩慢な動きで腕の持ち主が姿を現した。 「あぁー頭痛い……。ここどこ――――って私んちだった。うぇぇえええ、気持ち悪」 現れたのは長い黒髪を後ろで束ね、白衣を羽織った女だった。それも酔っ払いの。 「なあおい本当にこの人が腕の立つ医者なんか」 「とてもそうは見えないっすね……」 「あのーすんません、ここ病院であってる?」 「うん? あなた達どこのどなたかしら?」 一応こちらの言葉に反応は示すみたいだな。 そこで改めて女の姿を確認してみる。 黒髪のポニーテールに白衣、それだけ聞くと何となく知的な印象を受けるかもしれないが目の前の酔っ払いからはそんな雰囲気は一切感じられない。虚ろな目はどこを見ているかも分からず、足元もおぼつかないのか両手をカウンターについて体を支えていた。 「俺たち近くの森で魔物に襲われて、見ての通りの状態なんだけど。ここに腕の良い医者がいるって聞いてきたんだ」 女の視線がようやくこちらを向いた。俺達の状態に一通り目を通していく。 「これはまた……うっぷ、結構派手にやられたものね」 そういって懐から一本の注射器をとりだし、躊躇いもなく己の首筋へ突き刺した。いきなりの行動に唖然とする俺たちへ、空になった注射器を振りながら目をこする。 「ああこれ? 私特製、ただの酔い覚ましよぉ。別に怪しいものは入ってないわよ? ジェルフロッグの内臓の粉末とギガアントの体液を混ぜてポイズンリザードの涎を数滴加えて三日三晩煮詰めたら…………って、今はそれどころじゃなかったわねぇ」 先ほどと別人の様な目つきを見せる。 「二人共、奥へ来なさい」 廊下を進みベッド兼診察台の様な器具の上にそれぞれ横になるように指示され、大人しくそれに従う。
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