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考え事に夢中で隣でカリンが呼ぶ声に気が付かなかったらしい。
「あなた達二人共すっかり良くなったしうちでの治療は今日でお終い」
「いやほんと、あんたには感謝してもしきれない程だ。今日まで世話になったありがとうドクター」
「あたしも! ほんとに感謝してるっす! ありがとうございます先生!!」
「あらあらお礼なんていいのよ」
揃って頭を下げる俺たち二人にひらひらと手を振り笑顔を見せる。
そういえばここに来て一か月経つけどドクターが笑った所を始めてみたな。
酔っぱらってさえいなければ知的な印象を感じさせる美人なお姉さんって感じだ。
そんな白衣のポニーテールが懐に手を入れながら何かを探る。
「別に感謝はいらないわよ、こっちも慈善業でやっている訳でもないしね。あ、あったあった」
ぴら、と一枚の紙きれを差し出してくる。
反射的にそれを手に取りそこに書いてある文字を目でなぞる。
「請求書、って書いてあるな」
そこには治療費三万ゴール、薬品代一万ゴール、宿泊費二万ゴールなどなど雑多な用途の金額が細かく記されていたが一際目を引いたのが最後の一行。
…………私の酒代、5万ゴール。合計十一万ゴール。
「サイスケさん? その紙なんて書いてあるんすか?」
黙ってカリンの方へ紙きれを向ける。
「えーっとどれどれ…………ぶっ!?」
ひと月本を読んでいたおかげでそれが金額を表す単位だということはすぐに分かった。ただ勘違いがあるといけないからな、一応現地の人間の価値観で確かめてみるか。
「聞くまでも無さそうだけど、これ……高いのか?」
「…………」
額というか頬というか顔全体からダラダラと汗を流す様子を見てなんとなく察しはついた。
「……ちなみに今いくら持ってる?」
ポケットから三枚の硬貨を取り出し俺の手に落とす。
「……で、これで幾らになるんだよ」
「三百ゴール……っす」
「あのードクター? 俺たち今持ち合わせが――――」
「ああ、それなら大丈夫よ。最初に診察した時に軽く調べたんだけど二人とも若いだけあって健康的な身体していたのよね。ガワだけじゃなくて……内臓とか新鮮で高い価値のあるものだったわ。それこそそういう筋に売れば百万でも二百万でも出して買う人たちもいるくらいに……」
「できれば臓器売買は無しの方向で行きたいんだけど……」
「あらそう? 残念ねえ、若いしあなた達のなら結構良い値で売れると思うんだけど。お気に召さないなら仕方ないわね、手間と時間はかかるけど町のギルドで依頼を受けてお金を稼ぐっていう方法も――――」
「そっちでお願いするっす!!!!」
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