はじめてのおつかい

2/5
691人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
カウンターの上に丁寧に差し出されたのはスマホよりも少し大きめサイズをした一枚のカードだった。 そこには先ほど記入した内容と同じ文字列で埋められていたが、左上に小さな四角形の空欄が空いている。 学生証とか免許証だとこういうスペースには総じて顔写真がはめ込まれるものだけど、写真なんか取ってないしこれは一体……。 「では最後に生体認証登録を行いますのでカードを手に取り、目線の高さに合わせてください」 生体認証? なんかいきなりハイテクっぽい単語が出てきたな……。ともあれ言われた通りにカードを手に取り自分の目の前に掲げてみる。すると―――― 「おお、空いてたスペースに俺の顔が!!」 いよいよ免許証らしさに磨きがかかったカードをこすってみたり裏返してみたりと今の現象の理屈を見極めようとしてみたが、止めた。こんな世界で一々細かい事に疑問を持っていたら時間がいくらあっても足りないな。これはこういうものだと受け入れた方が気も楽だし。 「これで冒険者登録は全て完了です。新たな冒険者、カシミヤ・サイスケ様の未来に幸多くある事を願っています」 「はいどうも、早速なんだけど依頼(クエスト)ってやつを受けたい。実は俺たちお金に困ってて……手っとり早く稼ぎたいんだけど。具体的には十一万ゴール程」 「それでしたらこちらなどはいかがでしょうか?」 お姉さんがカウンターの横にある掲示板から一枚の紙を持ってくる。 「えーなになに? 高山龍マウンテンドラゴンの討伐、報酬金五十万ゴール、ほー良いじゃないっすか! 先生への支払いを済ませてもおつりが来る金額っすね。で、最後に追記があるんすけど……腕に自身のある方のみ受注下さい、十年以上経験を積んだベテランの方のみが受注する事をお勧めします。特に、素人に毛が生えた程度の新米が来ても片づける死体が増えるだけなので新人は黙って身の丈にあった依頼(クエスト)から始めろクソったれ……って書いてあるっすね」 「あのーこれって……」 受付のお姉さんの方を見ると変わらぬ笑顔をこちらに向けているだけだった。 「はい、何でございましょう」 ニコニコ顔のお姉さんだが、その目は一ミリも笑ってない様に見えるのは多分気のせいじゃないな。 「せっかく持ってきてもらったんだけど、出来れば他のにしてもらえないかなー、と。剣もまともに握った事も無いようなド新人二人の身の丈にあった奴をお願いします……」 常に微笑みを絶やさないお姉さんが掲示板に向かい、戻ってくる。 「ではこちらなどが最適だと思われますが如何いたしましょう?」 そこに書いてあったのは新人二人が初めて挑む依頼(クエスト)としてこれ以上ないってくらい最適なターゲットだった。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!