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バクン、と冗談抜きで口から心臓が飛び出しそうになった。
何、何だ? 俺に話しかけたのか? 天気が、なんて? 良い天気って言った? 何が? この大雨が? 一瞬で俺の頭を疑問符が埋め尽くす。トークスキルに自信がある訳でもない俺には雨の日に出会った殺人鬼と交わす会話というのはハードルが高すぎる。
あ、とかう、とかを口の中でもごもごさせているとレイニーザリッパーはこの大雨で俺が聞き取れなかったと思ったのか、先ほどよりもやや大き目の声で全く同じ台詞で呼びかけてきた。
何て応えるのが正解なのか、全く見当もつかないがこのままだんまりを続けてもいい方に進む気もしない。無視されたと相手が機嫌を損ねたら少し先で倒れている男と同じ運命を辿るのは明白だ。
「ああ、そうだな……雨、振ってるもんな……」
無難で中身なんてない返答。本音を言えばこの大雨中いい天気だとのたまう感性に全力で突っ込んでいきたい所だがそんな事をすれば悪い方にあいつを刺激する可能性の方が高い。
だから俺に出来る事はこうして相手を刺激しないように全身全霊で言葉を選びながら出来るだけ会話を続ける。一番いいのはこのまま会話の中で説得して命だけは見逃してもらう事それが難しければ誰かが通りかかるまで時間を稼ぐ、それが今の俺に出来る唯一の手だ。
「雨の日は良い。雨の雫が全てを洗い流してくれる気がする」
「お、俺も雨は嫌いじゃないぞ。静かな所で雨の降る音を聞いてると心が落ち着くというか癒される気がするし」
「どんな汚れも、穢れも、罪でさえこの雨に打たれていると綺麗に無くなる気がしてさ」
ああ、多分こいつは駄目な奴だ。関わり合いになったら絶対にいけないやつだ。
まあ、今更それが分かった所でもう手遅れみたいなものなんだけど。
「だから、雨の日に人を……襲うのか?」
「見ろよこれ。さっきまで血まみれだった俺の手もこの雨ですっかり綺麗になった。これってつまりこの雨が俺の手も罪もきれいさっぱり洗い流してくれたってことだろう」
そういってレインコートの袖から両手を出し俺に向けてひらひらと振っている。
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