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「あんたは人を殺すのを罪だって言ったな。なら何でその人を殺した? 罪だと思っているならわざわざ人殺しなんてしなけりゃいい話じゃないのか」
「お前、趣味はある?」
「……バスケ。学校の部活でやってるやつ」
「それは誰かに命令されてやってるのか? それともやらなきゃいけない理由があるのか?」
「どっちも違う、俺がやりたくてやってるだけだ」
なんとなくこいつの言いたい事の予想がついた。
人として、この現代社会に生きる人間としてあり得ない、有ってはならない様なおぞましく忌まわしい考え。
「つまりそれだよ。お前の趣味がバスケなら『生き物を殺す』それ自体が俺にとってのバスケだよ」
狂ってる。人に対してこの言葉がこれほど当てはまるのもそうそうないと思うけど、こいつにはピッタリだ。
「いっぱい練習しただろう? どんなプレイが有効なのかたくさんも勉強しただろう? 俺もそうしてる。人間やっぱり趣味に時間と労力をかけるのが一番だからな」
この言葉だけ切りとれば自分の趣味に一生懸命打ち込んでいるだけの人間の様にも聞こえなくもない。でもこいつはそうじゃない。
「……そうか。こっちからも一つ質問いいかな」
どうぞという様に掌を差し出してくる。
「あー、その俺のこともこれから……殺すのか」
「うーんどうするかな。ここら辺は地元だしあんまり騒ぎも大きくしたくない。それに、今日はもう満足したしこのまま帰ってもいいんだけどさ」
そうしてくれると助かる。それはもうマジで。だけどー―――
「別に見た者全員皆殺しだーみたいなポリシーはないんだけどさ。これだけ話に付き合ってもらったんだし」
大きく息を吸い、止め、吐く。試合前に俺が良くやるルーチンみたいなものだ。
この恐怖は試合前の緊張だと思え。ここまで会話で時間を稼いだのは人が通るのただ待ってただけじゃない。両手足の具合を確かめる。動く、動ける。
「これも何かの縁だと思って、ここで殺されとかねえか」
フードの奥で瞳が妖しく光った気がした。
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