694人が本棚に入れています
本棚に追加
あいつが一歩、男の死体を踏み越えようとした瞬間、俺は死体とそれを作った張本人に背を向けて全速力で駆け出した。
「おぉう、流石現役バスケ部。瞬発力たか」
背後からあいつの声が聞こえる。
「でもまあ、こっちだって現役の殺人鬼だぜ。『追いかけて殺す』為の練習も勿論やってるんだよなぁ」
遠く背後でそんな言葉が聞こえてきた。
関係ねえ、これでも脚には自信がある方なんだ。さっきまではビビってまともに走れなかったけどもう恐怖にも慣れた。このまま全力で走れば追いつかれる前にどっか安全な場所に――――。
逃げ込める、そう考えていた俺の目の前を何かが横切った。
直後、ガキィンという音ともに目の前のコンクリート製の壁が炸裂した。
そこには一本のナイフが突き刺さっており、その時飛び散った小さな破片が俺の顔に叩きつけれる。
「いっでぇ――――ッ!!」
破片が右目に入った。それ以外にも細かい破片が頬を鼻に切り傷を付けたのが分かる。
だがそこで立ち止まって傷を確かめたい気持ちを堪え、再びトップスピードで走り出す。
「ははは! 根性あるなあ! たまにはこういうのも歯ごたえがあって楽しいもんだ!」
背後からあいつの声が聞こえる。そう遠くない。最高速は俺の方が速いはずだけどさっきので追いつかれた。このままだとまずい。次の角を曲がったらそこで加速して――――。
ガキィンと再びナイフが飛んできた。今まさに曲がろうとした角に突き刺さったナイフを見て、一瞬脚が止まりかけるが何とかそのまま走り続ける。
「クソ! 曲がり損ねた!」
出来る限り直進を続けるのは避けたい。さっきのを見る限り流石に走りながらのナイフ投げは精度に難があるらしいが、このまま真っすぐ走り続けているだけじゃいつか俺の背中に命中しても何ら不思議じゃない。つーか何本ナイフ持ってんだよ!
最初のコメントを投稿しよう!