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そこから何度か丁字路や曲がり角を迎えたもののその度に背後から飛んでくるナイフに進路を妨害され、少しづつあいつとの距離が縮まっている気がする。そこでふと違和感に気づく。
あんなタイミングと精度で投げれる奴がこんだけ的を外すなんてあるのか?
嫌な予感が脳裏をよぎる。もし、ここまであいつが投げたナイフの全てが最初から俺を狙ったものじゃなかったら? 俺の進行方向を制御するための布石だったとしたら!?
俺の疑念に対する答えはその直後にやってきた。
「…………やられたッ!!」
十数メートル続く直進の先にあるのは、遮断機の下りていく踏切だった。
この雨と自分の走る音で警報音も聞こえなかった、そこまで計算づくで!?
…………関係ない。ここで立ち止まれば背後から追いついてくる絶望に呑まれて死ぬ。このまま進めばやがて来る絶望に轢かれて死ぬ、かもしれない。
そうだ。まだ間に合わないと決まった訳じゃない。警報音が鳴り始めて電車が来るまで数十秒はあった筈、遮断機が下り切っても直後に電車が来るわけじゃない、ほんの少しでも可能性がある!
だったらここで足を止めるな、諦めるな。
僅かでも可能性のある方を選べ、前に進め!
止まりそうになる脚に気合を入れ直し再び駆ける。
まだ間に合うまだ間に合う。
頭の中で念仏の様に繰り返し自分に言い聞かせる。
背後にはあいつの足音が迫っている、かなり近い。
この距離なら確実に命中するであろうナイフが飛んで来ない所を見るに、自慢の飛び道具は弾切れなのか。
踏切まで数メートル、電車のライトが線路を照らす。
近い、でもぎりぎり間に合う! ここさえ越せば後ろのあいつは間に合わない、逃げ切れる! そう確信した俺は最後の力を振り絞り遮断機を飛び越えようとした。
そこに――――――――――
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