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一か月後
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「うん、これならもう大丈夫ね」
柔らかな朝の日差しが差し込む部屋、ドクター・ミナミが俺の包帯を外しながら肩の傷跡を指でなぞる。
「あんたのおかげでなドクター。感謝してるよ、本当にありがとう。でもその指はこそばゆいからやめてくれ」
「あらごめんなさい」
ドクターがおどけたように俺の肩から指を離す。
「おはようございます! 今日も相変わらずいい天気っすね!」
「ああ、お前は相変わらず馬鹿っぽいな。……顔、包帯取れたのか」
病室の扉を勢い良く開け入ってきたのは栗色のショートヘアを元気に揺らす可憐な少女だった。
「はい、ついさっき先生にとってもらったんすよ!」
「やっぱりカリンちゃんは包帯無い方が可愛いわねぇ」
ゴブリンに襲われ二人して大怪我をした日……つまり俺がこの世界に来た日から約一か月が経過した。
「先生のおかげっすよ。あんなに酷い怪我だったのに傷跡ひとつ残さずすっかり元どおりっすからね!」
「でも……やっぱり手だけは綺麗に元通りとはいかなくて、ごめんなさいね」
「そんなことないっすよ! 先生には感謝してもしきれない程感謝してるっす、それにこの手の傷だって冒険者として箔がついたみたいで格好いいじゃないすか!」
そう、この一か月の診療所生活のおかげでカリンの掌の怪我以外はすっかり元通りになっていた。まあそれにしても一か月も診療所に籠っていたもんだから随分と体がなまってる気がする。
正確にはリハビリがてらたまに町を散策したりはしていたものの、大半はベッドの上で過ごしていた事に変わりはないからな。
その間比較的傷も浅く治療も単純で
短時間なもので済んでいた俺は余った時間をこの世界の情報収集に充てていた。もっとシンプルに言えば読書だ。
町を散策している時に見つけた小さな図書館で借りた本を一日中ベッドの上で読みふけっていた訳で。
中身については当然の様に見たことのない文字が並んでいた。だが不思議な事に何故かその言葉を理解し、まるで以前からその文字を知っていたかのように不自由なく読み進める事が出来た。
まあそもそもどう見たって日本人には見えないカリン相手に言葉が通じている時点でこの辺の事情は深く考える必要はないだろう。
おかげでこの世界で生きていく為に必要な知識はそれなりに身に付いた。
といってもどこの土地は危険だから近づくなとか、どの魔物は毒を持ってるから気をつけろとかそんなご当地レベルの情報が多かったけど。
その中で一番興味を惹かれる内容だったのが――――
「サイスケさん、聞こえてるっすか?」
「ん、ああ悪い。なんだって?」
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