はじめてのおつかい

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はじめてのおつかい

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ という訳で一か月分の入院費を稼ぐために俺とカリンは町の中心に建つギルドへと向かう。 「確かこっちの方だったよな」 入院中のリハビリ散策でこの町の構造は大体頭に入っている。ドクターの診療所を出て八百屋のある角を右に曲がって次を左、そのまま道なりに進めば――――。 「到着――――っと」 町の中心に立つ『ギルド』と呼ばれる建物。大小問わず一つの町には必ず一つのギルドがある。 ギルドには多数の人が集まり情報交換に勤しんだり、冒険者としてギルドに登録さえすれば最低限の衣食住を提供してくれたりと冒険者の為の寄り合い所みたいな場所らしい。まあ、本で読んだだけの知識だけどな。 「そういえばお前はもう登録は済んでるのか?」 「ええまあ一応、ただ……」 そこで少し言葉を濁す。 「まだ一度もギルドの依頼をこなしたこともモンスターを倒したこともないんすけど」 「ああ、そうだろうな」 あの様子じゃあまともに剣を振った事もないだろう。 「ま、まあそれはともかく中に入らないすっか」 両開きの扉を開け中に入る。大きな建物に似合った広いホールが俺たちを迎え入れてくれた。縦長のテーブルひとつの両側にそれぞれ十脚の椅子、それが合計四セット。そして正面には人が複数人並んで立てる幅の広いカウンターが設けられていた。 「広い……けど、思ったより寂れてんな。人も少ないし」 「この町自体、そんなに賑わっている方じゃないっすからね」 こんなものだろうと首振り真っすぐカウンターに向かうカリン。木製の柵とテーブルが組み合わさった様な形状のカウンターを挟み、受付のお姉さんに声をかけた。 「あのーすいませんっす」 「えっ、あ、はい。何の御用でしょう?」 退屈そうに手元の書類に目を通していた受付の人が驚いた様に顔を上げた。普段どれだけ人が集まらないかがうかがい知れるなあ。 「冒険者の登録がしたいんすけど」 「ではこちらの書類に必要事項を記入してください」 そういうと受付のお姉さんが冒険者登録申請書と書かれた紙を取り出してこちらに差し出す。 そこには名前や年齢性別、出身地など基本的な項目が並んでいた。 特に悩む部分も無かったので必要事項をさっと記入しお姉さんに渡す。 「はい確かに受領しました。ではこの書類を元に新規の冒険者登録を行いますので少々お待ち下さい」 お姉さんが書類を手に受付の奥の扉に姿を消す。 数分の間だったろうか、カリンと二人ギルドの内装をぼんやり眺めていると扉の向こうからお姉さんが帰ってきた。 その手には先ほど俺が記入した書類とは異なる何かが握られていた。 「お待たせしました、こちらがあなたのギルドカードとなります。ギルド関連の施設の利用や公共施設の割引サービス、身分証明等様々な用途に利用できるカードです」
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