少し前の話

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少し前の話

◆◆◆◆◆◆◆◆ 異なる世界から現れた少年と偶然出会った少女が生まれて初めてのクエストをクリアした日からひと月前。 深い森の中で目覚めた樫宮才助が自身とカリン・オルナートに襲い掛かるゴブリン達を撃退したその時からしばらく後。 サイスケの手から逃れた二匹のゴブリンは少し離れた位置にある、とある洞窟の中で恭しく頭を垂れていた。 緑色の小鬼たちの頭の先には大小様々な石を積み上げた、見ようによっては玉座とも呼べなくもない粗雑な椅子があった。 その椅子に深く腰を落とす何者かは黙って彼らの不潔で歪な形をした頭頂部を眺めていた。 「……グゲ、グギギ、ググゲ」 二匹の片割れが顔を伏せたまま声を上げる。 小鬼の口から発せられるのは当然人間の言葉ではない。では彼らの頭の先に鎮座するのはゴブリンの首領かはたまた王か、正解はそのどちらでもなかった。 「だぁから、何言ってっか分かんねえってつってんだろうが」 ゴシャッ、と何者かの足裏と硬い岩肌の地面で小鬼の頭部がプレスされる。岩の玉座から飛び降り、器用にも片足で小さな面積へ着地を決めた人物は両手を広げそのままの体勢を維持するようにバランスをとる。文字通り、頭上でその人物がゆるゆらと揺れる度小鬼の小さな頭部からみしみしと嫌な響きの音が鳴る。 一通り満足のしたのかその人物は耐久度が限界を迎える直前のその頭部から足を下ろし、二本の脚でもって地面を踏んだ。 「いやまあ何言ってるかは何故か分かるんだけど、なんか気持ち悪ぃから人の言葉しゃべれって何度も言ってるだろ」 軽くのびをすると再び玉座に座り直す。 「まあいいや、それで? 大事な仲間を三匹も失って得た物はなし、と。本っ当に使えねえゴミ共だな」 心底不機嫌そうな口調で言葉を吐き出すその人物。 それは人間の男性だった。背丈は二メートルに届かず、といった具合で、見た所二十代前半だろうか、その顔や全身の筋肉に至るまで張りのある若々しさが目を引くスポーツマンといった印象を受ける。 「よりによって何でゴブリンなんだよ」 そう憎々し気に呟く青年は数か月前の事を思い出していた
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