693人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
獣との対峙
◆◆◆◆◆◆
時は戻り現在。
元の世界で趣味活に勤しんでいた所、ちょっとしたミスで電車に轢かれて死亡したカシミヤ・サイスケと偶々彼に助けられた少女カリン・オルナートはとある森の中で額から角の生えた巨大猪と対峙していた。
「ほらそっちいったぞ」
「はいっす!」
栗色のショートヘアを揺らす美少女は凄まじい勢いで突進してくる角猪をぎりぎりまで引き付ける。額から生えた角と口元の左右から生えた牙の計三本の鋭い凶器。それらをぎりぎりで身を翻して躱し、すれ違いざまの一瞬でその横腹を手にした剣で斬り付ける……だが――――
ギャリリッ、とまるで金属同士が擦れ合う様な音が響くが硬い毛皮の分厚い壁に阻まれその巨体に傷を与えるに至らなかった。
「ブヒヒィッッ!!」
全力の突進を躱された上、傷は負わなかったものの思い切り剣で斬りつけられた怒りを鼻から吹きだした角猪。
その場で振り返り目の前のカリン目がけてさらにスピード上げて突き進む。
「ぎゃぁああっ! なんでこっち来るんすか!?」
予想よりも増した速さに驚きつつも、殆ど横っ飛びの様な動きをもって紙一重の所で猪の猛進を躱しきる。
ズドォン、と腹の底まで響く様な重低音が森を揺らす。人間三人が手を繋いでようやく周囲を囲めるサイズの巨木の幹に三角形を描く様に三か所、拳大の穴が穿たれた。
それを見たカリンの顔からすうっと血の気が引いていく。
「あんなもん当たったら死んじゃうっすけど!?」
「じゃあ死ぬ気で避ければいいだろ」
「仲間のピンチに少し投げやり過ぎやしないっすか!?」
結構予想通りの反応に走り回りながら憤慨する少女。その姿を少し離れた場所から眺める若干パーマの入った黒髪で細身の少年、カシミヤ・サイスケは小さな欠伸を一つ漏らす。
最初のコメントを投稿しよう!