人ごみの中にて

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人ごみの中にて

 世界のランキングにおいて、日本は人口密度が高い一国と呼ばれているのは、恐らくこの池袋というところだけでも十分に表せてくる。繁栄だからといって、東口を出ると、町中にはすごく賑やかで、道を抜けないほど、人々の雑踏が満ちている。  僕は一人で、この町へ来た。目的があるから来た、と自分さえ、思いたくなるけれども、実は頭が空っぽで、何もかも考えずに、ひたすらにふらふらして流れて来ただけだ。  町中に一本筋のように単なるに歩く。それは目的地がなく、来たいわけでもないせいかもしれない。  ここには、タピオカを持ち、仲間と楽しく喋っている人もいれば、夫婦同士で手を繋ぎながら、互いににこにこして笑い合う人もいる。何の関わりのない、通り過ぎる人々の顔に、流れてくる笑顔を漏れて、手持ちの何も入っていない、透明なセラーメイトに入れられるなら、すでに充満され、溢れてくるほどだろう。  羨ましい。なんでそんなに幸せな都市のだろう。あの人たちのような人になりたい。僕も幸せな笑いがしたい。  こんな僕が生きているところで、誰も僕を望んでくれたりはせず、仮にこの世から姿が消えたとしても、何人かが悲しんだりしてくれれば、それはもう、ありがたいほど、最高に嬉しい。  ところが、セラーメイトが僕の手を抜いて、頭の上へ徐々に上昇し、止まっている。僕も足を止める。そして、セラーメイトが止まったままで、激しい虹色を放つ。その後、セラーメイトが虹色を捨てて、急速に回り始め、さらに止まったままとなる。  町中の人々の上に、一つ、二つ、三つ・・・淡い黄色な光の点が次々と生じる。淡い黄色たちは物足りないように、さらに真っ白な色を衣として着替えて、艶やかに光を放つ。その後、黄色と白を混じったものたちは、同時に上昇してビルの高さでも比べられないほど、空中に飾る。あたかも朝星のように、数え切れずにある。  しかし、人々はそれが気づいていないようで、ひたすらに僕を抜いて、歩き続けている。  僕は星を見届ける。孤独すぎるせいかもしれないが、ある意味では、星たちも僕に目線を注いでいるように思えてくるのだ。  しばらく止まった星たちは、急激にセラーメイトへ集まってくる。一本目が届く、二本目が届く、三本目が届く・・・星たちは、セラーメイトに入ると、水のような透明な液体となり、ようやくセラーメイトが満たされる。余ったものも液体となり、セラーメイトの口から溢れてきて、僕の周りへ滴ってくるが、地面に吸収されたように、跡が見えない。  満たされたセラーメイトがまるで自体が意識があって、満たされたとわかっているようで、空中から徐々に下がってくる。僕は両手に水を受ける形に変えて、セラーメイトを待つ。
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