人ごみの中にて

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 手で受け取ったセラーメイトはかなり重く感じる。少し偏って持つと、液体が漏れてしまう。バランス良く持って見つめると、実際にこの透明な液体は、水と変わりがないように見えてくる。嗅いでみても、何の匂いもしない。  急いで走ってくる男性のかばんが手にぶつかると、セラーメイトが少し偏って、液体が漏れてしまった。  「あ、すいません。」  その男性が振り向いて謝って、しばらくは止まってセラーメイトを見張る。顔を見れば、理解しがたい表情をしている。  「あのー、何かが見えますか?」  他人が見えるかどうかは確認したくて、その男性に問うた。それから、男性は何度も見直している。  「えっ、中は空っぽじゃないですか?」  「そうですか。すいません。お忙しいのに。」  「いえいえ。」  男性は言うが早いか、歩き始めた。  この液体については、恐らく僕でしか見えない。一本の指で中の液体を触ってみたら、濡れた触感もして、指にも確かに液体がついている。  そう何度も見まくっているうちに、液体が変わる。底に火がついているような赤い色となり、燃えているに感じられる。そして、上は数え切れない紫の点が飾るように変わる。  そのとき、ある女の子どもとお母さんとの会話が耳に届く。  「ママ、飲んで〜」  「いいのよ、ママは大丈夫。せっちゃんが飲んで〜」  「はーい〜」  その会話で、気がついて、もし、これを飲むとどうなるのだろう。しかし、死が招いてきたらどうするかな。思い直してみれば、死をもたらしても、誰も気づいてくれないのか。
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