手のひらに乗る満天の星

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 袋に貼りつけられたテープをそっと剥がして、中身を取り出した。 「……わぁ」  手のひらにコロンと落ちたのは、先輩が描いたあの星空の絵を小さくしたものだった。キーホルダーがついていて、表面はツルリと滑らかに加工されている。 「先輩、これって……」  永井先輩はそっぽを向いたままだったので、私は正面に回り込んだ。  唇を曲げているけれど、顔は真っ赤に染まっていた。 「これ、私貰っていいんですか?」 「姉ちゃんが!」 「へ?」 「姉ちゃんが、お世話になったんだから……ちゃんとお礼しなきゃダメだって。お前、俺のあの絵が好きだって言ってただろ?」  私は頷く。 「姉ちゃんにもその話してたらか、あの絵を小さく加工して、お、お、女の子が喜ぶアクセサリーにしたらいいじゃないってさ。……僕が主導でやったんじゃないからな!」 「もう、素直じゃないんですね、先輩って」 「うるさいな!」 「……うれしいです」  私がポツリと呟くと、先輩は真っ赤な顔をしたまま「それなら良かった」と小さな声で言った。 「姉ちゃんがあの絵でもあげたら? なんて適当な事言ってたけど、あれはダメだ。僕の棺に入れてもらうつもりなんだから。……加工は姉ちゃんがしてくれたから、僕はあまり何もしてないんだけどな。姉ちゃんに直接感謝出来たらよかったのにな」  素直になれない先輩は、先ほどと違って饒舌だった。 「永井先輩」 「何だよ」 「先輩って、こんな星空、見たことないんですよね?」 「そうだけど……なんだよ、悪いかよ」 「いいえ。私が昔住んでたところって、何もないところだったんですよ」  パンケーキもタピオカも、可愛らしい服も、コンビニすら近くにない田舎町。でも、まるで触れることができるんじゃないかと思うくらい、星空だけがきれいだった。 「いつか私が、田舎に先輩の事を連れて行って……本物の星空、見せてあげます。約束します」 「なんだ、ソレ」 「これのお礼ですよ」  私は手のひらに乗るその星空を、ぎゅっと握りしめていた。金具がひんやりと冷たい。それで、私は体が熱くなっていることに気づいた。鼻の奥が痛くなってきたけれど、私はどうしても、先輩の前で涙を流すようなことはしたくなかった。 「……それなら、この絵はその本物の星空とやらを見てから描こうかな」  先輩の視線の先には、あの描きかけのキャンバスがある。まだ濃紺の空が描かれているだけで、星は一つもない絵。私はその絵に、まるで流れ星が流れたときのように何度も願いを込める。この約束が、どうぞ叶いますように――と。  おばあちゃんが言っていた、星みたいに輝くもの。  私にとっての輝くものは、この淡い約束だった。それを叶えられるように、今自分にできることは何なのだろう。私は先輩と別れた後も、ずっとずっと、それだけを考えて生きていくのだろう。  あの星空のキーホルダーは、ずっとカバンに付け続けた。手のひらに乗るくらい小さくなった星空。それは私にこの約束を忘れさせないように、今日も瞬いている。
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