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第二章 恋わずらい
小島海人(カイト)は悩んでいた。
春から始めた家計を助けるためのバイトで
彼は店長の金井望さんと知り合った。
望さんが兄の元カノだと知ったのは、
彼女が店の奥で、こっそり泣いているのを見たときからだ。
品出しの途中でなかなか戻らない彼女を手伝おうと
ストックの棚に近づいた時
カイトは様子がおかしいことに気付いた。
「どうしたんですか?」
「・・・・・・なんでもない、って言いたいけど
どう見てもなんでもなくないよね。」
質問を投げたカイトに彼女はそう返した。
目が赤かった。
「小島くんのお兄ちゃん、アキヒトくんでしょ?
私ね、大阪に行く前に付き合ってたんだ。」
「そう、なんですか。」
兄が色んな女の人と付き合っていたのは知っている。
望さんもその中の一人だったのか、と思って
カイトは黙っていた。
そんなつながりがあったとは、と複雑な気持ちだった。
「別れたし、忘れようと思ってたんだけど
どうしても諦められなくて
大阪まで追いかけてったんだけどね。
だけど、アキくんすごい美人のことが好きだったんだ。
だから、私じゃ太刀打ちできなくて、逃げてきちゃった。」
カイトから見れば、望さんは充分すぎるほど綺麗なのだが
その望さんからして
<太刀打ちできない>と言うレベルの美人なんて
一体どんな人なんだろうと彼は思った。
と同時に、
初めて会った時からほのかな好意を寄せていた
望さんの泣き顔を見て、カイトの胸が疼く。
兄と違って奥手な彼は、
フォークダンス以外では女子と手を繋いだ事すらない。
そんな彼でも、自分の彼女に対する気持ちは
恋である事を自覚していた。
「カイトくん、お兄ちゃんに似てるから思い出しちゃうんだよね。
メガネ外したらそっくりだよ。」
眩しそうに言われ、カイトはどぎまぎしていた。
「すみません、似てて。」
焦ってわけの分からない事を言ってしまう。
「何言ってるの、似てるのはカイトくんのせいじゃないよ。」
“ですよね。”
カイトは内心自分に突っ込みを入れていた。
「あの、俺でよかったら兄さんの代わりになりますけど?」
ダメもとで言ってみる。
さりげなく言った割りに、かなり大胆な発言をしたものだ。
と、彼は少し恥ずかしくなった。
内心慌てるが、彼女が乗ってくれたらそれに越した事はない。
そんな事を思いながら、彼はちらりと望を見た。
「馬鹿ね、気を使わなくていいのよ。
真面目だから責任感じちゃったんでしょ?ほら、仕事に戻ろう。」
雰囲気に便乗したとはいえ、
一世一代の勇気だったんだけどな・・・・・・
発言を軽く流されてしまい、
カイトは内心ため息をつきながら仕事に戻った。
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