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目的地である銀色の、葡萄の樹を模したらしき大きなオブジェが、階段の先に見える。
約束の時間の5分ほど前に到着したんだけど、そこには既に三人の姿が揃っていて、僕の階段を昇るペースは早足から駆け足へと変わった。
「すみませんっ!
...誘っておいて、皆を待たせちゃってっ!」
息を切らせながらそう言うと、三人はキョトンとした様子で顔を見合わせ、そして笑った。
「大丈夫だよ、久米くん。
皆予定より早く着いちゃっただけで、まだ6時にはなってないから。」
駅の天上に吊るされたデジタルの時計を指差し、笑顔で牧田くんが言ってくれた。
「そうですよ、気にしないで。
でもせっかく全員揃ったんだし、もう行きましょうか?」
柔和な笑みを浮かべ、臣くんもフォローしてくれた。
「だね!
久米サン...真面目すぎ。」
そう言った蛇塚くんはオブジェの方を見上げていたから背中しか見えなかったけれど、彼の肩はふるふると揺れていたからきっと、笑いを噛み殺しているに違いない。
僕はちょっとバツが悪かったけれど、これ以上優しい皆に気を遣わせたくなかったから、笑顔で言った。
「ありがとうございます。
じゃあ、行きましょう!」
カラオケボックスに到着すると、僕達は受付を済ませ、個室へと向かった。
しかしそこで蛇塚くんは、『ぁ』と小さな声で言い、踵を返して再びカウンターの方に向かいながらニッと笑った。
「確かここ、パーティーグッズみたいなの、貸してくれたはず。
借りてくるねー♪」
気が利くな、蛇塚くん!
僕と牧田くんは、マイクやら何やらで両手が塞がっていたため、若者二人にそれは任せた。
部屋に到着してしばらくすると、二人が戻ってきた。
蛇塚くんの手には、様々なグッズが入れられた、真っ黒なプラスチック製のかごが握られている。
その中身をテーブルの上に、いそいそと臣くんが並べていく。
「えっと...。それは、いらなくない?」
途中思わず、吹き出した。
僕が手にしたのは、黒渕の丸眼鏡。
でもそれには、大きな鼻がくっついていて。
...100円ショップなどでよく見かけるから定番商品ではあるのだろうけど、正直つけてみたいとは1ミリも思わない。
「いるかも知れないでしょ?
後からやっぱりつけたいって言う人も、出てくるかも知れないし。」
クスクスと悪戯っ子みたいに、顔を見合わせて笑う年少者二人。
そんなやり取りをしていたら、牧田くんは瞳を輝かせ、あるモノに手を伸ばした。
「俺、これがいいっ!
タンバリン、もーらいっ!」
それは確かに彼のいう通り、タンバリンだったのだけれど、作りは割と粗悪な感じで。
いかにも子供用です、といった雰囲気のそれには、可愛らしいピンクのウサギのイラストまで添えられている。
そしてそこに書かれた、アルファベットが二文字。
「...『AL』って、何の略だろう?」
全員が首を傾げ、考えたけれど、その答えに辿り着く者は、一人も居なかった。
(※正解は、『アニマル・ラブ』です( ・∀・))
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