ラブソングが歌えない

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 ディナーはカジュアルなイタリアンレストランの個室だった。  夕飯ぐらいゆっくり食べたいだろ? というシュンが予約していてくれた。やっぱりできる男は違うな、と感心するばかりだ。  シュンの彼女が羨ましい、なんて思うのはおかしいだろうか。  日はすっかり落ちて、ビルの十一階にあるレストランから東京の夜景がよく見えた。綺麗だな。こんなところでデートできたら楽しいだろうな。こんなところにシュンと来られる女の子は幸せだな。 「さっきからなんでそんなに悲しい顔するの?」  シュンがグラスの縁を撫でていた。細めた瞳を縁取る睫毛が長いな、とか思った。 「だって、シュンばっかり大人なことしてて、ずるい」 「それだけじゃないでしょ? ダーリン」  男の声の「ダーリン」がこんなに甘いなんて知らない。知らないことをシュンはいっぱい知っている。 「シュンとデートしてる女の子が羨ましい、なんて」 「ふーん」とシュンが口角をあげる。  ――そんな女の子、オレにはいないよ。 「え?」とハルトは目を見開く。 「ハルトがいればいいんだ、オレにはね」  とびきりの口説き文句をさらりと言うシュンが信じられない。喜んでしまいそうな自分をハルトは責めた。 「それ、他の女の子にも言ってない?」 「疑り深いね、ハルトは」  それとも、嫉妬?  ハルトは何も言い返せなかった。
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