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「ハルト、怒ってる?」
「怒ってない」
怒っている人は大体「怒ってない」と返事をするものだ。ハルトは早足で眠ろうとしている街並みを歩いた。
「じゃあ質問を変えるね。今日、ハルトは楽しかった?」
ハルトが立ち止まる。街灯の真下。スポットライトのようにハルトとシュンを照らす。
「楽しかった。楽しかったけど、悔しかった」
「悔しい?」
「だって、シュンとオレじゃ経験値が違いすぎるって言うか、その……」
この先を言ってしまうかハルトは悩んだ。でももうさよならの時間が迫っていた。
「シュンともっと、恋人同士でいたかった」
ハルトは泣き出していた。こんなにも離れがたくて寂しくなるのならば恋なんて知らなくてもよかった。背後にいるかもしれない女の子に嫉妬するような醜い感情を持ちたくなかった。けれど、やっぱりシュンは最高のパートナーで、まぶしくて、
「だい、すき」
午前零時の鐘が鳴る。ハルトは袖で涙を拭う。もう帰らなきゃ、と地下鉄の入り口に向かう。
「っ!?」
後ろから抱きしめられていた。酷く安心する香り。シュンだ。
「延長、するか?」
「え?」
「恋人同士の時間、延長しよう」
質問が提案に変わった。
「いいの?」
「ああ」
「もう他の女の子とデートしない?」
「しない」
「これからもプレシャスボーイズでいてくれる?」
「一生プレボだ」
「オレと、オレと」
――最高の景色、見てくれる?
シュンは耳元で、もちろん、と答えた。
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