ラブソングが歌えない

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 スポットライトはオレのためにある。山崎ハルトはそう信じて疑わなかった。  雑誌の読者投票で行われる「彼氏にしたい男性アイドルランキング」では五年連続一位。「国民的彼氏」の名を欲しいままにするハルトは今日も見せかけの愛を歌う。  Cメロの後、サビの前。ハルトは少し怒った目をして囁く。  ――お前ら全員抱いてやるよ――  五万五千人のハルトの恋人(ハニー)たちが黄色い悲鳴を上げる。息が止まるような歓声の渦に全身がしびれる。アイドルは夢を売る仕事だ。顔の整った男の子を妄信的に愛し、ハルトたちはそれに応える。コツはファンの全員が自分一人に言われているのだと錯覚させること。八歳からこの世界にいるハルトは分かりきっていた。しかしハルトには悩みがあった。八歳からアイドルとしての道を歩んできた彼は、一人として抱いたことがないのだ。
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