第2話 朝

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第2話 朝

 小金持ちな中流家庭に生まれ、何不自由無く育ってきた。中学の頃、勉強勉強とうるさかった父に好きな子は居ないのか聞かれて「まだ女の子に興味は無い」と答えると、父は僕の答えに満足そうだった。  周りがエロ本や恋愛に浮き足立ってきても、僕だけは何故かどうしても女子に興味を持てなかった。  柔らかいおっぱいやお尻より、筋肉や筋を見たい触りたいと思う。漫画でも少年漫画は筋肉を誇張されている事が多い。男だから筋肉が好きなだけだ、男なら皆筋肉が好きだと思っていた。  しかし、中3の夏、両親が用意した家庭教師が僕の人生を明確にした。  文武両道の大学生家庭教師の、筋肉質な身体を見ているうちに勃ってしまった。それで、初めて自分がゲイではないかと疑い、その後自覚した。  そしてそれが彼に見つかり、自慰を見せるよう強要された。その後3年間…初めは見せるだけだったのが、尻の穴にオモチャを入れられ、咥えさせられ、高3の秋には上に乗ってきた。  彼が僕の身体を貪っている最中に父親が帰宅。 「お前のような気持ちの悪い奴は、私の息子ではない!」  実の父親に存在を拒絶された。  半年後、高校を卒業して家出同然で関西の犬の訓練所に就職した僕は、やっと自由を手に入れたと思った。少なくとも、一昨日までは。。。 「誠…おい、誠、起きろ。鍵開いてたから上がらしてもろたで」  朝7時。肩を揺すられて目を開けると、目の前に同僚の甲斐谷の顔があって驚いた。無意識に目覚ましのアラームを止めてしまったらしい。  与えられた4畳半の個室が、朝日に照らされ薄い水色に染まっている。煎餅布団で丸まっている僕と、僕を起こしに来た甲斐谷……小さな水槽の中のようだと、寝惚けた頭で思った。  甲斐谷は僕と同じ今年入社だが、大卒で社会人経験があるので、歳は5つ上の同期。入社してから遅刻続きの僕を心配して、起こしに来てくれる事になっていた。  訓練所に入るに当たり彼女と別れたそうで、僕と違って健全爽やかノーマルなイケメンさんだ。さらに性格は優しくて世話好きときている。  部屋には鍵が付いているが、わざわざ犬だらけの訓練所に侵入しようなんて泥棒も居ないだろうから、開けておいて良かった。 「ありがと…ございます」  カラカラに乾いた口を無理に開き、眠い目をこすりながら礼を言う。 「年上やけど、オレら同期なんやからタメ口でしゃべろって言うたやろ」 「……ん」 「朝起きるコツはな、何とか頑張って上半身だけ起こすんや。しばらくぼうっとしてたら、少しだけ眠気が覚める。そしたら次は布団から出てぼうっとする。で、次にトイレに行けば目は覚めるよ。ホラ、上半身だけでも起こせ」  甲斐谷に促され、鉛のように重い上半身を起こすと、朝勃ちが元気で恥ずかしくなった。目立たないよう布団の形を変えたつもりが、甲斐谷に見られたようで、クスリと笑われた。  同期と言っても、やはり社会人経験があるだけあって、僕よりずっと大人に見える。  180cm以上ある男らしい体型に、細く切れ上がった鋭い瞳。ふんわりとカールしているくせっ毛と関西弁が、クールな印象を和らげている。支給されているブルーの作業着が良く似合っていて、正直、一目惚れだった。  対して僕は170cmほどの中背痩せ型。まだ発育途上な年頃ではあるが、いくら食べても肉が付かず50kgちょっとしかない。 「ほら、朝飯食いに行くで。それでなくてもお前は細いんやから…」 「ん……」 2dbe0657-6397-4a35-8eb5-48e6250c47d1  優しい気遣いに、少しは好かれているのではないかと期待してしまう。好きな相手が自分の部屋に居るってだけで緊張するのに、呆けた寝顔を見られたのかと思うといたたまれない。  あんなにアラームで起きようと決めていたのに…アラームを止めた瞬間の自分を蹴り飛ばしてやりたい。  だが、訓練所での修行は5年以上。その間に痴情のもつれなどあれば厄介だ。ましてやゲイだなんて…バレるわけにはいかない。
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