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プロローグ
────ヴヴヴゥ……
「……ぁく、あ、あぁ…ッぅ」
ガクガクと揺れる身体を必死に両手で抱え、苦痛にでも耐えるかのように口を固く結んでも、絶えず漏れ出すのは甘い嬌声。涙で潤んだ瞳はすっかりと熱に浮かされてとろりと蕩けていた。
荒く繰り返す自身の呼吸すらどこか遠いことのように思えて、ぼんやりとした思考では正常な判断もできない。
与えられる快楽に翻弄され続けて、かれこれ、どのくらいの時間が経過しようとしているのか。
──なんで……こんなことに。
ナカを抉る強烈な刺激に身を震わせる。襲いくる狂わしいほどの快感に苛まれ、朝日奈 千晴は、羞恥に煽られながらもだらしなく尻を突き出していた。腹の内から伝わる小刻みな振動は機械的なのに、酷く脳内を揺さぶられる感覚は、否応無しに身体中を犯す。
「…ひぁっ、ぅ、ああぁっ」
堪らないとばかりに、勝手に腰が揺れる。
まるで、発情した猫のようだ。
ぎゅっと固く目を閉じれば、するりと乾いた掌が頬を撫でた。
「──イイだろう、朝日奈。」
「──…ッ!ふ、ぅ、ッ」
耳許で囁かれるのは、低くて甘いテノール。その声を聞くだけで、忽ちぴりぴりと甘美な痺れが奔った。
うなじにかかる熱い吐息にすら官能を覚え、呼吸が乱れる。まるで快楽という名の地獄にでも叩き落とされたような気さえした。
薄らと瞼を開けて、虚ろな瞳で前を見据える。そんな朝日奈を鋭く射抜くのは、薄墨色の双眸。その目に見詰められると、まるで金縛りにでもあったかのように朝日奈は視線を逸らすことすら叶わなかった。
「────欲しいか?」
やんわりと髪を撫でつける手つきが穏やかで、思わずうっとりとしてしまう。嫌味のひとつでも言ってやりたいのに、声が上擦って言葉にならない。
こんなの、知らない。カラダが、この男を求めてやまない。
もう、解放されたい。怖い。きもちい。ほしい。
感情がごちゃまぜになる。満たされたくて満たされたくて仕方の無い、この底なし沼の様な欲求を抑え込む手段など、最早皆無だった。
自然と涙が滲む。理性など当にぶっ飛んでいた。
……欲しい。
躊躇いもなくコクリと頷く朝日奈に満足した男は、ご褒美だと言わんばかりに目を細めて笑みを深めた。
ずぶりと勢い良く後ろの凶器が抜かれ、軽く意識が飛びかける。そしてそのまま男の膝の上に引き寄せられると、濡れた蕾に擦れる熱い塊に歓喜して、勝手に奥が疼いた。
──従いたく、ない、のに……
……恐らく、次に紡がれるであろう言葉に、どうやって抗ったらいいのだろう。こうもずぶずぶに溶かされては、もう取り返しもつかない。
しかしそれでも、僅かに残った意地やプライドがあったからこそ、こうして朝日奈はまだ意識を保っていられた。並大抵の人間であれば、きっとその身だって遠慮なく差し出していただろう。
踏み込んではいけなかったのだ、この男の領域に。
だがそんなのももう今更────
(……罠だった、そう、初めから)
「────さあ、朝日奈、おいで。」
「っ──ッッふぁ゛あぁああああッ!!」
抵抗など、無意味だった。
無情にも告げられた言葉を合図に、朝日奈の身体はすっかり力の抜けた膝から崩れ落ちて、ペタンと犬の様にソコに座り込む。その衝撃で容赦なく最奥へと突き立てられたのは、怒張しきった男の欲望。
身を貫くような激しい快感に支配され、チカチカと眩しいくらいに目の前が点滅し、頭の中が真っ白になる。
血が沸騰し、熱が逆流して、波打つ身体を止めることなど出来なかった。
そして、赤く熟れた起立から耐えきれなくなったとばかりに弾け飛ぶ白濁を、狭まっていく視界の端で、朝日奈は、まるで他人事のように眺めていたのだった。
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