第一章

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時貞と空を見上げ、天狗が見えなくなると、結子はその場に膝をついた。 肩の力を抜いてみれば、どっと汗が溢れてきた。 矢を離した感触が指先に残っている。 「まったく、何なのよ。あれは」 息も絶え絶えに、結子は愚痴る。 「あれは、鈴鹿山の天狗だ」 「すずかやまー?」 鈴鹿山とは、結子達の住む月守町の隣町にある山だ。 標高は1000メートルけして、高い山ではないが尾根広く、針葉樹林が多い。 天候によっては、霧が濃く、遭難者を何度か出したことのある山で、霊山とも呼ばれている。 「わしらはあいつらを追って、過去から来た」 「過去?」 「そう、昔のこと。お前たちが過去と呼ぶ場所からだ」 「タイムスリップってこと?」 「いや、それはどうかは知らん」 なんか、ややこしいな。 しかも、信じられるはずがない。何か盛大なドッキリに巻き込まれている気がした。 しかし、辺りを見渡すがカメラやギャラリーはいない。 時貞と名乗る侍は、砂利の上に腰を下ろした。 「お前のお陰で助かった」 「どういたしまして。それより、これからのことを考えなよ」 困った顔の狐が側に寄ってくる。 結子が頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。 「助けては下さりませんか?」 「今、自分の稚気を最大に活かしてるね」 時貞を見ると、困ったように笑っている。 とは言え、自分も彼らも他に行ける当てもなかった。 選択肢はただ一つ。
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