第二章

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食事を済ませ、結子は改めて貴明の部屋を訪れる。 「なんだ。食べ物あったんだ」 貴明の貯蔵していた、お菓子を3人でわけている。 「結子、すごいな! この時代の食べ物は、こんなに不思議な味は初めてだ!」 「わかったから、大声出さないで」 結子が制するよりも先に、時貞はコーラを飲んで、身悶えしながら口を閉じた。 「なんじゃこりゃ、熊の胆嚢か?」 「コーラよ」 結子はため息をつきながら、とっちらかった部屋に自分の居場所を探した。 高明の部屋はゴミなどはないものの、所せましと本が渦高く積まれていて、足の踏み場もない。 結子はなんとか、積まれた本をそろりそろりと壁に避け、ようやく腰を下ろした。 腰を下ろすと、今日起こった出来事への疲労感がどっと押し寄せてきた。 「さて。話は彼らから聞いた。 結子、僕は兄としてお前を初めて尊敬する」 「あー、ありがとう」 「改めて。 はじめまして。坂口 貴明です」 貴明はおずおずと、時貞に手を差し出した。 「あ、あぁ。上月 時貞だ。」 戦国時代にシェイクハンズの文化はない。 貴明の手は差し出されたまま、宙をさまよっている。 「僕は…あなたにずっとお会いしたかった…」 「そうなの?」 「そうなのか?」 貴明は深く頷き、瞬きもしないほど、熱い視線を送っている。時貞は耐えかねて、顔を逸らし、ちょっとずつ後ろに下がるほどに。 「貴明殿は、時貞様をご存じなのですか?」 日和が尋ねた。 「あぁ、まさしく僕の卒業テーマだからね」 「え、そうなの⁈」 「なんだ、知らなかったのか」 兄の卒業論文など全くもって興味がなかったから、知らなかった。 「僕は大学一年生の頃からこのテーマでやると決めていたんだ」 彼はごそごそと本山を漁ると、古ぼけた本を一冊取り出した。 現代の本とは違い、糸で背を縛ってあった。 「これは写しなんだけど、奇跡的に手に入ったものなんだ」 「題名、なんて書いてあるの?すでに読めないんですけど」 「これはな、月桜物語と書いてある。 作者は不明だ。 宇治拾遺物語と同じで、多彩な説話集めたものだ。 書かれた時代はさほど古くない。大体、300年〜150年くらいの間のことが書いてあると、研究でわかっている。文体は同じで一人が書いているように見えるが、おそらく、2〜3世代に渡って書かれている。 そりゃ、150年も生きている人間なんていないからな。 作者不明なのも、これが原因だと言われている。 その中でも、僕が研究しているのは、この物語の第14章にある、ある日、月守の土地を治めていた上月家の三男が神隠しにあったという物語がある。 息子の名前は時貞。 武術に優れ、筆の才もあったそうだ。 将来、有望な若者だったが、『時をかける』と言い残して、しばらく姿をくらましたとここに書かれている」
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