第二章

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結子は拾ってきた二人を見た。 お伽話だと思っていたものが目の前にいる。 息をして、瞬きをしている。 「それで、その後はどうなったの?」 「その後のことは書かれていないから、どうなんだろうな。 無事に帰れたのか記載はない」 貴明は本を置き、天井を見上げる。 「僕はまるで、夢を見ているようだよ。 まさか、物語の登場人物がここにいるなんて」 「いや、でもね、ちょっと待って。じゃ、過去から飛んできたって話を信じるの?」 「信じるも何も、目の前にいるじゃないか」 「物語を読んで、コスプレしてるだけの、盛大なコスプレイヤーかもしれないじゃない!」 「結子」 時貞が呼んだ。 「信じてもらえるとは思っていない。 だが、お前も見ただろう。天狗はどう説明する? お前は射抜いた瞬間、確かな手応えを感じた筈だ」 「結子、お前、天狗に会ったのか⁈」 結子は黙って頷いた。 今日あった出来事は何もかもが、現代の理屈では説明できない。 あまりにも非現実すぎて、時々、頭の中が酔ったようにフワフワする。 「僕は彼らの存在を否定することはできない。 それは、僕の研究テーマを否定することでもあるからだ。 僕の研究テーマは、その物語もそうだけど、時をかけるだ。 これが立証できれば、世紀の発見になる」 「それって、未来に行ったり、過去に行ったりするってこと? バック・トゥ・ザ・フューチャーみたいに?」 貴明は真剣なまなざしで頷いた。 「誰にでもやり直したい過去がある。 あの時ああしていれば、こうしていれば。 その反対に、未来を見たい気持ちもある。 未来が分かれば、今、自分がどうすべきなのか明確になり、欲しい未来が手に入る。 不平等だらけのこの世界で唯一、時間はみなが平等に与えられたものだ。 そして、一番どうにもならないものだ。 だが、もし、その時間を一度でも思いのままに操ることができれば」 「天下すらも手に入る」 時貞の言葉に、みなが息を飲んだ。 「もしもの話だ」 時貞は笑ってごまかしたが、全員の脳裏をよぎった想像は簡単には消えなかった。 もし、織田信長が生きていたら? もし、豊臣秀吉が天下人にならなければ? もし、徳川家康が関ケ原で負ければ? 様々な「If…」は、どこへ繋がっているかわからない。 さらには、もしその「If…」に巻き込まれれば、結子達の存在すら危ういものとなる。
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