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第三章
「あんたが離れに行くなんて珍しいわね」
居間に入ると、パジャマを着てテレビを見ていた母にそう言われた。
「あーちょっと用事があって。大丈夫、もう終わったから」
「だったら、お風呂さっさと入っちゃって。
お父さんもうすぐ上がってくるから」
母がそう言うと、廊下から居間に続くガラス障子が開いた。
「なんだ、結子ここにいたのか?」
タオルで薄くなった頭をぬぐう父が入ってくる。
「貴明の部屋から笑い声が聞こえてきたから、まだ離れにいるのか思ってた」
風呂場から離れまでは近い。バカな兄たちは息をひそめることを簡単に忘れ、しようもないことで盛り上がってるのだろう。
「え、何?なんで結子怒ってるの?」
「あ、え、怒ってなんかないよ。なんか、ちょっと考えごとしてただけ」
「え、そうなの?」
心の中はまったく大丈夫じゃなかったが、なんとかごまかすことに成功はした。
「お腹痛かったら、そこの戸棚に薬箱あるから飲むのよ。
それと、明日から父さんと母さんおばあちゃんちに行くけど、
あんたちゃんと起きて部活行きなさいよ」
あーそういえば明日から二日間、兄と二人だった。
本当なら一緒について行きたいのだが、弓道部の大会を理由に行けないと断りを入れていた。
ーーーけど……
今日の放課後のことが、胸に重くのしかかった。
「なんだ、結子、部活で何かあったのか?」
何かとさとい父が聞いてきた。
「何にもないよ」
「ないことないでしょ。あんたは昔から頑固で強調性がないんだから、
どうせ何かもめたんでしょ。ほんと、うちの子は何でみんなと仲良くできないのかしら」
ーーー育て方が悪かったのよ
いつも喉元まで出てくる言葉を今日も飲み込んだ。
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