第四章

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第四章

気がつけば、草原に立っていた。 枯れたススキが太ももをくすぐっている。 不思議だ。 ここは夢だと分かっているのに、戸惑っている心が現世と同じぐらい鮮明だ。 「よかった。ここでお会いできて」 足元を見ると、ススキ野原の終わりに日和がいた。 「ここは、夢よね? あなたが見せてるの?」 「そうです。神様が夢枕に立つ、あれです」 あー、あれかー。なんてなるはずがなかった。 狐について、ススキ野原の丘を降りる。 目の前には、山と田んぼ、点在する家しかない。家も藁葺き屋根で、枯れた草木色をしている。 「ここって、どこ?」 「です」 「時貞の生きた時代?」 「そうですね。 江戸から明治へと代わる境目です。 ここは、関東領域ではありますが、政とは随分離れています。 ここの人々は、世界を変える力を持つにも関わらず、常に関心があるのは、明日の米なのですよ」 結子は歩きながら、手ぬぐいを肩にかけ、鎌を持った日本昔話でしかみたことのない装いの夫婦とすれ違った。 麻の着物を着た子供が指を吸いながら、母親の手を掴んでいる。 周りの黄金色の景色や、畑の隅にある柿がなっているところから見て、今は秋だろう。 実りの秋なのに、人々の顔にはどこか影がある。 「なんか、みんな元気ないね」 「飢えがそうさせるのです」 普段聞きなれない残酷な言葉が、胸に刺さった。夢だからか、ひどく痛みを感じる 「約3年、日照りが続きました。今年も作物が病にかかり、 もうこの村に食べるものはほとんど残っておりません」 「雨が降らないなら、井戸とかないの?」 「井戸を掘るのは重労働なので、この村には一つしかありません。 しかし、その井戸も今は藻にやられ使える水ではありません」 結子は僅かな知識をひけらかしたように感じて、恥ずかしくなった。 この土地には土地の事情があるのだ。 「ご覧ください。藁葺き屋根がほとんどの中、山の麓にある瓦屋根でできた大きな屋敷が庄屋です。 蔵がいくつかあるでしょう? あそこから、米を運ぶんですよ」 狐が指した先には、白い漆喰でできた壁があった。壁の上には瓦屋根があり、一目でこの村の中で有力者であることがわかる。 門が開けられており、法被に褌姿の男達が忙しなく行き来している。 「これは に送る米を運んでいるんですよ」 「でも、みんな食べるものがないんでしょ? だったら、納められないじゃん」 「そこをなんとかしなくては行けないのが、税というものです」
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