第四章

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その時、陰鬱な雰囲気を破る大声が響いた。 「なんだなんだ! みな生気が足りとらんぞー! よし、わしが代わろう。 お前達は少しでも休め」 現れたのは、今よりも少し小さな時貞だった。 彼は着物を抜いで上半身裸になると、老者の運び手から米俵をぶんどると、 「大丈夫だ。 わしが元服したら、この国をすぐにでも変えてやる。 新しい知恵を集め、豊かに作物が実る方法や、 もっと楽に酪農ができるようにしてやるからな!」 時貞は自分の胸を叩いて、宣言する。 すると、そこにいた誰もが呆れるような、それでも嬉しそうな顔で、子供の時貞を褒め称えた。 「期待してるぞ」「早く大人になれよ」という祝福のヤジの中、時貞は俵を運びながらその声援に応えている。 「そうだな!わしはいつかこの国から旅に出て、見聞を広めにいく。 そこで持ち帰った経験で、必ずこの国を豊かにしてみせるからな!」 初めて会った時もそうだ。 この人はどうしてここまで、人に力を与えるのだろう? 結子が天狗に向かって、弓を放てたのも、時貞がいたからだ。 けして、自分の力ではない。 結子は目が離せないままに、時貞が汗をかきながら俵を運ぶを眺めた。 すると、門の方から一人の下男が走ってきた。 「時貞様はここにおられますか?」 時貞は俵を下ろすと、手を上げて答える。 「お館様がお呼びです。支度を」 「おう、そうか、今いくぞ!」 と、時貞は返事をすると手拭いで軽く体を拭いてから、皆に別れを告げると、足早に庄屋を後にした。 彼らは時貞が見えなくなるまで、手を振っていた。 狐に促され、時貞の後をついて山を登るが息切れはしない。さほど高い山でないが、エスカレーターに乗っているかのように、すいすい進む。 ーーーそうか、夢だからか。 狐も足取り軽く山道を鼻歌まじりに進む。 山も日照りが続いているせいだろう。冬の山のように草木が枯れている。 「惨めでしょう?我が国の山はすっかり、生きる力を失ってしまいました。 本来であれば、紅葉のトンネルをくぐるはずなのですが、当時は色づく葉さえ残らなかった」 寒々しい山の頂に辿りつくと、木製の門が見えた。 門番が二人いて、槍を構えている。 どちらも眉根を寄せて、口を強く引きむすんでいる。 時貞は門番に軽く挨拶すると、さっさと城内へ入ってしまった。 「近づいても大丈夫ですよ。 これは夢ですから」 尻込みしている結子を尻目に、日和はそう言うと、スタスタと前を歩いていく。 結子はそれでも、おっかなびっくり、様子を伺いながら門番の横をすり抜けた。 「あ!」 その見覚えある屋敷を見て、結子は声をあげた。 「月守町 武家屋敷パーク!」 月守市 武家屋敷パークとは、結子は達の住む月守町にある、体験型テーマパークだ。 月守城は江戸から明治に入る前に、藩の取り潰しによって城も解体させられたという話だが、月守市に残された文献や資料などから、月守城を忠実に再現し、復興してある。 市税が投げ打たれたこのテーマパークは月守市の観光用である。名古屋城や大阪城ほどとは行かないが、映画のロケ地などで使えるようにも整えられているし、茶会や生け花の展示会場としても使われる。 最近では、コスプレイベントにも貸し出されていて、そこそこの収益があるらしい。 この城が築城された当時は、軍事拠点というよりは、政治を執り行う政庁としての役割や、普通に居住区として使われていたようである。 その証拠に、土間はあるし、建物の高さとしても2階までしかない。 「おじゃましまーす」 時貞の後に続いて、式台を跨ぐと奥の方から声が聞こえてきた。
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