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その時、陰鬱な雰囲気を破る大声が響いた。
「なんだなんだ!
みな生気が足りとらんぞー!
よし、わしが代わろう。
お前達は少しでも休め」
現れたのは、今よりも少し小さな時貞だった。
彼は着物を抜いで上半身裸になると、老者の運び手から米俵をぶんどると、
「大丈夫だ。
わしが元服したら、この国をすぐにでも変えてやる。
新しい知恵を集め、豊かに作物が実る方法や、
もっと楽に酪農ができるようにしてやるからな!」
時貞は自分の胸を叩いて、宣言する。
すると、そこにいた誰もが呆れるような、それでも嬉しそうな顔で、子供の時貞を褒め称えた。
「期待してるぞ」「早く大人になれよ」という祝福のヤジの中、時貞は俵を運びながらその声援に応えている。
「そうだな!わしはいつかこの国から旅に出て、見聞を広めにいく。
そこで持ち帰った経験で、必ずこの国を豊かにしてみせるからな!」
初めて会った時もそうだ。
この人はどうしてここまで、人に力を与えるのだろう?
結子が天狗に向かって、弓を放てたのも、時貞がいたからだ。
けして、自分の力ではない。
結子は目が離せないままに、時貞が汗をかきながら俵を運ぶを眺めた。
すると、門の方から一人の下男が走ってきた。
「時貞様はここにおられますか?」
時貞は俵を下ろすと、手を上げて答える。
「お館様がお呼びです。支度を」
「おう、そうか、今いくぞ!」
と、時貞は返事をすると手拭いで軽く体を拭いてから、皆に別れを告げると、足早に庄屋を後にした。
彼らは時貞が見えなくなるまで、手を振っていた。
狐に促され、時貞の後をついて山を登るが息切れはしない。さほど高い山でないが、エスカレーターに乗っているかのように、すいすい進む。
ーーーそうか、夢だからか。
狐も足取り軽く山道を鼻歌まじりに進む。
山も日照りが続いているせいだろう。冬の山のように草木が枯れている。
「惨めでしょう?我が国の山はすっかり、生きる力を失ってしまいました。
本来であれば、紅葉のトンネルをくぐるはずなのですが、当時は色づく葉さえ残らなかった」
寒々しい山の頂に辿りつくと、木製の門が見えた。
門番が二人いて、槍を構えている。
どちらも眉根を寄せて、口を強く引きむすんでいる。
時貞は門番に軽く挨拶すると、さっさと城内へ入ってしまった。
「近づいても大丈夫ですよ。
これは夢ですから」
尻込みしている結子を尻目に、日和はそう言うと、スタスタと前を歩いていく。
結子はそれでも、おっかなびっくり、様子を伺いながら門番の横をすり抜けた。
「あ!」
その見覚えある屋敷を見て、結子は声をあげた。
「月守町 武家屋敷パーク!」
月守市 武家屋敷パークとは、結子は達の住む月守町にある、体験型テーマパークだ。
月守城は江戸から明治に入る前に、藩の取り潰しによって城も解体させられたという話だが、月守市に残された文献や資料などから、月守城を忠実に再現し、復興してある。
市税が投げ打たれたこのテーマパークは月守市の観光用である。名古屋城や大阪城ほどとは行かないが、映画のロケ地などで使えるようにも整えられているし、茶会や生け花の展示会場としても使われる。
最近では、コスプレイベントにも貸し出されていて、そこそこの収益があるらしい。
この城が築城された当時は、軍事拠点というよりは、政治を執り行う政庁としての役割や、普通に居住区として使われていたようである。
その証拠に、土間はあるし、建物の高さとしても2階までしかない。
「おじゃましまーす」
時貞の後に続いて、式台を跨ぐと奥の方から声が聞こえてきた。
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