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「これからどうするんだ?」
時貞はマグカップを置いて、神妙な顔をした。
「時貞の時代のことや、お前がここにきた理由の背景は昨日、日和に見せてもらった」
「お兄ちゃんも見たの?」
貴明は頷く。
「ひどい有様だったな。お前がここに来た理由はよくわかった。
で、どうする?」
「ツグ姫を取り戻す」
「それしかないよなー。問題は天狗の目的だよな」
たしかに、彼らには何か明確な意思がありそうだ。それに、それとはあまり関係がかいかもしれないが、彼らは、結子はけして狙わなかった。
弱そうな結子を盾に取れば、簡単に勝てたかもしれない。それでも、それはしなかった。
結子はずっとそれが引っかかっている。
「まさか、天下とか狙ってないよね?」
「まさかまさか。天狗は薬加賀の守り神です。
天下を欲するなど、人の真似事のようなことはしないでしょう」
日和は軽く笑って、提案を流す。
「そうなんだー。
ところでだけどら天狗も、神様になれるんだ」
「100年ほど人に祭られれば、神となります。
菅原道真なんて人であったのに、神になりました。
要は人の畏怖となり、信仰されるかどうかなのです」
結子は、神とはもっと神々しいものだと思い込んでいたので、天狗はむしろ魔物にしか見えなかった。
まぁ、日和はのモフモフ感も神とは言い難いから、そういうものなのかもしれない。
「本来であれば、このような事態となっても対話で解決したいと思っております。
けれど、時間がないのです。
時を超えれるのは時かけの月がでている年のたった3日間だけですから」
坂口兄弟はそろって首を傾げる。
「「時掛の月?」」
「望月、既望、立待月の3日間だけなのです」
「日数で言うと、新月から数えて、15、16、17日目。
月が一番満ちている期間だな」
貴明の言葉に、日和が頷く。
結子の驚いた声に、日和はピンと髭を伸ばし、ふふん。と鼻で笑う。
「ただの狐にしか見えないのにね」
結子は指先で、尖った耳を弄び、日和は首を振って、それを払いのけようとする。
「祝言で結納と共に交わされていたのが、時掛の玉です。
あれは、私が500年前に上月家がこの土地を守り、私を拝礼するという盟約の元に、送ったものです。
あれは私の力が込められ、二度だけ時を掛けることができるよう術が施されていました」
「何で2回だけなの?」
「行って帰ってくるようですよ。
だから、実質的に1回が限度です。いくら孝明な神の私とは言え、それが限度です」
「わしらにできることは、ツグと時の玉を取り返すことだ。
頼む、どうか力を貸してくれ」
時貞は、深々と頭を下げる。
(とんでもないものを拾ってしまった)
結子は事の重大さにいまさら冷や汗が流れた。
私たちがなんとかしないと、歴史が変わってしまうのだ。
いや、待て待て。もしかしたら見捨てても、誰かが助けてくれるかもしれない。
きっとそうだ。
この無力な自分たちが役に立てることなんてない。
「僕たちができるだけ協力しよう」
「えぇ?!」
結子は悲鳴を上げながら立ち上がる。
「見捨ててはおけないだろー。あと、2日しかないしな」
「でも、ちょっと待ってよ。助けるのは私たちじゃなくてもいいじゃない。
専門家の人とかさ」
「その専門家を探してる間に、事態が急変するかもしれないだろ。
そんな顔してもダメだ。僕は助けると決めた」
「ほとんど引きこもりが何言ってんのよー」
結子はテーブルに突っ伏した。
「結子殿、私からも頼みます」
短い髪をかき分けて日和が鼻をつけてくる。
「時を超える力を与えてしまったのは私の落ち度です。
未来にいるあなた方にご迷惑おかけするとは、時を司る神として面目次第もございません。
私は所詮は時の神、天災を統べる力はございません。
時貞殿の婚儀だけが我が国を救う唯一の方法なのです。
何卒、よろしくお願い申し上げます」
日和が頭を下げたのと同時に、再び時貞も頭を下げる。
(ここまで来たんだ。仕方ないから付き合うか)
結子は内なる声にため息をつきながら、承諾した。
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