第一章

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「ここにおられましたか!時貞殿!」 後ろから甲高い少年の声がして、結子は飛び上がった。 振り向くとそこには、真っ白な狐が座っていた。 豊かな毛を持ち、首に紅白のしめ縄をつけた真っ白な狐は、尻尾を振りながらこちらに向かってくる。 「尻尾が二本ある!」 結子が悲鳴を上げると、狐は得意げに、 「素敵でしょう」 と言った。 狐は獣らしくなく、シャキシャキと規則正しく歩いてくる。 結子がさっと、避けて場所を譲ると狐は侍に躊躇なく近づき、肉球で頬をぶった。 「いつまでおやすみになっているんですか。 着きましたよ、あなたがお望みの未来とやらに、着きました」 ペチペチと頬を叩かれた、侍の眉がぴくりと動く。 「ん…」 侍が動いた。 彼はガシャガシャと音を立てながら、ゆっくりと体を起こす。 「おう。日和。無事であったか」 「この狐めへの御心配、痛み入ります。 そんなことより、着きましたぞ! 未来ですぞ!未来!」 狐がさらに声高に言うと、今までぼんやりしていた侍の目が見開かれ、光が宿る。 空を見上げたり地面に触れてみたり、辺りを確かめるように首を動かした。 「そうか!やったか! どうりで見慣れん景色だ! 音も違うな!」 侍は両耳の後ろに手当て、耳を済ませている。 「不思議な音で溢れておる。 地鳴りのような音が多いな。わしのおった時代は獣の声が多かったが、未来とやらはこんな風になるのか」 彼は何がおかしいのか、膝を打って笑い、狐もつられてケラケラと笑っている。 笑うと盛り上がる丸い頬骨や、健康的な歯茎を見るとやっぱり子供なのだ。 それでも、意味不明な言葉と、喋る狐に結子はぞっとした。
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