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見上げると、目に差し込むほど明るい光を放つ月が空に昇っていた。
「あの姿では、天狗も夜しか動けまい。
恐らく、動くなら今からだろう」
時刻は夜の20時。甲冑を身にまとった時貞は、先程とうって変わって顔に力が入っている。
「敵の次の動きはわかるのかい?」
貴明が尋ねた。
「時を動かすには、場所と時間が重要です。
彼らは時の境界線と呼ばれる場所にいるはずです」
日和が返事をする。
「どこなの?それ」
「武家屋敷パークだそうだ」
今度は貴明が答えた。
「え、あそこなの?」
「あそこは、子の刻にこの土地で月が最も強い光を当てる場所となっています。
恐らくですが、また時を掛けようとするなら、あそこ以外は考えられない」
色々と制約があるもんだなと、結子は思った。
「でもさ。そしたら、あそこに忍びこまなくちゃダメよね。それって無理なんじゃない?」
「いや、残念なことに屋敷を囲う、外壁があるだろ。
実はそこにしかセキュリティーはない。だから、それを越えることができれば中には入り放題なんだ」
昔、武家屋敷パークでアルバイトをしたことがある貴明は、ここのセキュリティーがさほど大したものでないことを知っていたようだ。
「そんなので大丈夫なの?」
「そもそも取るものがないからなー」
言われてみればそうだ。
こんな地味な建物、誰も忍び込んだりしない。
「そしたら、天狗達は空を飛んで入るな」
時貞が空を見上げた。
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