第五章

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にらみ合いが続く中、意を決してそろそろと、植え込みを出る。 周囲に注意を払いながら、背を低くして屋敷の奥まで走る。 足元を見ると、ちゃんと日和はついて来ていた。 「ツグ姫はどこにいるの?」 「3階の奥の部屋です」 「で、私達はどうやって外壁越えるの? 羽もないし、道具もない。 何の作戦もない………えぇ⁈」 横を見ると、今まで小さかった日和が巨大化していた。 トラぐらいのサイズになり、太い足で地を蹴っている。 「言ったでしょう。こう見えても神だと。 結子殿、もうすぐ外壁です。 私の背に飛び乗って下さい」 言われて、前を見ると外壁はそこまで迫っていた。 土壁でできた、簡素な作りだが、なかなかの高さがある。 これはかなりの高さのハシゴがないと到底侵入は難しい。 結子は駆けながら、日和の背を掴むと、ひらりと飛びのった。 「お見事!」 と日和が言うと、同時に結子は飛び乗った胴体にしがみつく。 日和は結子を乗せて、地を蹴った。目の前に迫っていた外壁が上へと上がり、結子の体に浮遊感が訪れる。 「飛んでるー!」 日和は外壁を難なく越えると、そのまま夜空をかけた。 まるで、空に道があるように踏みしめ、駆けてる。 まるで、お伽話の世界に迷い込んだような結子は跨る背中の上で、きゃーきゃーとはしゃいだ。 「はしゃぐのはそろそろ終わりですよ。 気づかれました!」 後ろを振り返ると、青色と苔色の天狗が飛び上がり、こちらに向かって飛んだきていた。 「気づくの早すぎ!」 「あなたが騒ぐからですよ!」 面目なくなって、結子はおし黙る。 「私が彼らを食い止めます。 その間にツグ姫様を連れて外に出てください」 身軽な天狗はもうそこまで迫っていた。 日和は軽く振り返ると、 「結子殿、止まっている時間はありません。 このまま振り落とします!」 と宣言した。 「え、嘘でしょ⁈」 「すみません!それではお達者で!」 結子が捕まり直そうとする間もなく、日和は勢いよく身を翻す。 すると、結子の身は遠心力で宙に放り出された。 「うそー!」 日和に向かって叫んだが、天狗に向かっていく狐の尾っぽしか見えなかった。 同時に、背中に衝撃が走った。 結子は受け身をとったが、ぶつかった衝撃で障子は弾け飛ぶ。 畳に打ち付けられ、2、3回転した後、泥壁で背中を強打して、やっと止まった。 「いったたたたた」 昔は柔道も嗜んでいたのが功を奏して、受け身を取った体に大事はない。 「いや、だからって信じられない」 そう言いながら、木の屑を払いながら立ち上がる。
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