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第六章
気がつくと、そこは座敷の間だった。
その先には、身支度を整えるツグ姫がいた。
「ツグ姫様、本当に大丈夫ですか?
山菜取ならわたくし達で行って参りますよ」
「何言っているの?
それじゃ、意味ないわ。お風邪を召されている母上にために、私くしは自分の出来うる限りのことをしたいのです」
ツグのやる気に満ちた言いかたに、妙齢の侍女はあきれがらも、笑顔を返す。
「では、できる限り早く参りましょうね」
身支度の速度を速める侍女にツグは「ありがとう」と言いながら、窓の外を見る。
「今日はいい天気ね」
途端、場所が変わって、そこは雨の降る森の中だった。
激しく降る雫が木の葉を叩きつける。
その崖の下で、ツグは蹲っていた。
結子は咄嗟に彼女に駆け寄ったが、彼女とはまったく目があわない。
(そうか、これは夢だった)
どうすることもできず、途方に暮れていると、
空から影が下りてきた。
その影の主を見て、ツグは驚愕の顔を見せる。
巨大なフキの葉をもった天狗がツグをまじまじと見ていた。
幼い頃から、ずっと聞かされていた。
この国を守り、この国に諫めてきた。
薬加賀家では、ずっと貢物を捧げ、国が困難に直面した時は諮詢してきた。
だが、その姿を拝めるのは薬加賀家の家長のみ。
おとぎ草子のような存在にはなっていた。
ツグは目を見開き、口を喘がせる。
恐れ多くも、禁区に立ち入ってしまったに違いない。
自らの失態は、自らで償う覚悟はある。
だが、どうか家族を咎めないで頂きたい。
ツグはその覚悟で目を閉じる。
その時、雨が止んだ。
怯えながらうっすらと目を開けると、緑の世界が広がっていた。
そして、頭上にフキを掲げる天狗と目があう。
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