第一章

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気づかれない間にここを去ろうと思い、ゆっくりと徐々に後退した。 すると、階段の終わりで、下げた足が砂利を踏み、音を立ててしまった。 ぴたりと笑い声が止まり、二人がこちらを向く。 二人から笑顔は消え、まっすぐな目だけがこちらを向いている。 (逃げなきゃ!) 慌てて、身を翻そうとするが、固まった体は思うように動かず、足がもつれて盛大に転んでしまった。 「きゃ!」 「大丈夫か?」 侍は甲冑を着ているのに、驚くほどの速さで結子のまで駆けてきた。 「女、お前はどこの者だ」 「いや、それはこっちが聞きたいわ」 手を貸してもらいながら、立ち上がると彼は目をキラキラとさせながら結子のことを見ていた。 好奇心に溢れ、聞きたいことがありすぎてうずうずしている目だ。それに、握った手も、握りっぱなしだ。 普段男子と手を繋いだことのない結子は緊張や気恥ずかしさで、顔が赤くなる。 「お前、アマか?」 「はぁ?」 アマ?何それ 「アマなのかと聞いている。その髪の短さはアマなのか?」 言ってる意味がわからない…… アマ、アマ、アマ、アマ? 「ーー……あぁ!尼さんのことね!」 そういうば、今日国語の授業で習ったことを思いだした。 「違います」 結子は繋いだ手を振りほどく。 「なら、お前は何だ」 「えっと…女子中学生です。名前は坂口 結子」 おずおずとしながらも結子は正直に答えた。 侍はきょとんとした顔して、 「じょし…ちゅ…がく……え? なんだかなぁ。ここの言葉は難しいな」 そう言うと、また豪快に笑った。 結子は顔を痙攣らせる。
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