第八章

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第八章

何が間違っていたのか。 誰か教えてほしい。 ーーーわしは間違っているのか? きっと間違っているのだろう。 そうでなければ、こんなにも大勢が苦しむ顔を見るはずがない。 足元には嘉次郎が肩から血を流して倒れている。 時貞はその肩を踏みつけ、問うた。 「なぜ、ヤツデの団扇を使わなかった」 「突風を起こしてお主に勝つなど、武士道に反するからな」 「天狗のお前が武士道を語るか」 時貞は鼻で笑った。 ーーーこの男を殺せば、一生ツグ姫は泣いてく暮らすことになる。 内なる声が言った。 「言われなくてもわかってる」 時貞は、ひとりごちた。 所詮、人の幸せなど誰かの犠牲の元に成り立っている。 責務を負うものほど、その犠牲となるのは当然のことだ。 嘉次郎も、覚悟はできているのだろう。 瞬きもしないその目には、火が灯っている。 遠くで、ツグ姫の悲鳴が聞こえた。 二人から遠くに控えていろと言われたが、居ても立ってもいられなくなったのだろう。 傷ついた嘉次郎を目にして、こちらに駆け寄ってくる。 だが、容赦を与える気はなかった。 彼は敗れたのだ。 時貞は、刀を振り上げる。 刃に月明かりが反射した。その時だった。 どこからが声がする。 なんだったか、急には思い出せなかった。 また、声がする。 あー、そうだ。 もう一度聞きたかった声だと気づいた時には、さらにその声は迫っていた。 「時貞ー!」 見上げると、夜空にずっと会いたかった女がいた。
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