第八章

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結子は、日和の背中から飛び降りると一目散に、時貞の元に走っていった。 時貞はぼんやりとした目でそれを眺めた。 「ゆ、い、こ」 「時貞!」 傾いだ体を、結子は抱きとめる。 「時貞、大丈夫?」 「すまない。少し、頭を打った」 「大丈夫じゃない!それ脳震盪だよ」 「大事ない」 時貞は結子の肩に手を置いて、再び立ち上がる。 「結子、力を貸してくれ。 あと、少しあと少しであいつに勝てるんだ。 そしたら、ツグを連れて帰って、国を救う」 「何言ってるの。もうやめなよ」 「そうはさせん」 いつの間にか立ち上がった嘉次郎は傷ついた腕から血を流しながらも、再び剣を構える。 「結子、あと少しなんだ。 あと少しで……」 「時貞、もうやめて」 結子は時貞を抱きしめる。 「聞いて、時貞。 私、わかったの。時貞に言われてわかったの。 もう、やめよう。 結婚も、逃げるのも、全部やめよう。みんなでやめよう。 やめて、私たちは向き合うしかないんだよ。 どんなに辛くても、厳しくても! みんながちゃんと幸せになる方法を考えよう」 「だが、そんなことをしては民が…」 「あんた、そんなことしてたら何回結婚しても足りないんだから! そんなことより、ちゃんと飢饉を自分達の力で乗り越えられる方法を考えよう!」 「結子」 時貞は、自分に必死にしがみつく彼女に向き直る。
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