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その時、内なる声が聞こえた。
ーーー的を射るのではない。
(あ、これは最初に弓道部を教えてもらった時に言われた言葉だ)
ーーー的と心を一つに。
結子は自然と背負う弓に手が伸びていた。
その一連の動作は、今までで一番美しいと自分でも感じていた。
時貞もその美しさに心を奪われた。
月を背負う彼に向かいあい、弓を構える。
心の声がまた、聞こえる。
ーーー的を射るのではない。
ーーー的と心を一つに。
その瞬間、天狗がものすごい速度で迫りくる感じがした。
その身ではなく、彼の存在、魂とも呼べるものが結子の中に引きつけられ、道ができた。
同時に、彼の悲しさも決意も、ツグ姫を思う気持ちも一つになった結子にはわかる。
それでも、結子は矢を放つ。
その心を救うと信じて。
月に向かって、矢は放たれた。
飛んでいく矢は夜空を掛ける。
誰もがその行方へ見守った。
ツグ姫は悲鳴をあげる。
時貞は、祈るような瞳で先を追う。
ーーー矢は、玉を射抜いた。
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