第一章

6/12

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
彼の迷いない瞳は強い決意を表していた。 「待って、なんでそうなるの?」 「お前が言ったのだろう。 このままではまずいと」 (いや、そうなんだけど……) どう返事をしたらいいものかと、考えあぐねている間に二人は「楽しみだな」と話している。 しかし、このまま二人を放っておくこともできなかった。こんな格好で街をうろついたら、確実に好奇の目にさらされてしまう。 恐らく、SNSにアップされて、人だかりができて、夕方にはネットニュースになる。 彼らには目的があるようだが、悪目立ちすれば達成するのは困難だろう。 「あのさ、お世話とかは無理かもしれないけど、 まぁ、相談くらいなら……っっ!」 言い終わる前に、侍の首に黒い糸が絡みついた。 「え?」と言っている間に、糸は時貞の首を絞め上げる。 「かはっ!けはっ!」 「ちょっと!」 糸が引かれ、時貞の体が後ろに傾いだ。結子はとっさに飛びつき、連れて行かれようとする体を食い止める。 が、飛びついたはいいものの。 首はますます締まっていき、時貞の目は血走り、顔が変色していく。 「え、どうしよ!」 「娘殿!刀を!」 日和の声で、結子は時貞の帯刀していた刀を片手で引き抜いた。 勢いで抜いたはいいものの、予想外の重さに体が前のめりになる。 「とにかく、振り回して下さい!」 幸いにも、夕日が糸を照らしてくれていた。 キラキラと宙で光るもの目がけて、結子は刀を振り回す。 感触はなかったが、光が左右や上下に離れ、 時貞の首から黒い糸が消えた。 「げっは、ごっほ、ごっほごっほ」 喉で詰まっていたものが一気に流れ込んだのか、時貞は膝をついて激しくむせた。 「大丈夫?!」 時貞が伸ばす手に刀を渡してやりながら、結子はその背をさすってやる。 すると、神社裏の山手から若い男の声がこだまする。 「我が、羅城蜘蛛の糸を断ち切るとは、さすが名刀、薄氷清丸。 しかし、ここまで追ってきた時貞様にも感服いたしますぞ」
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加