第一章

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ーーーそうやって、いつも逃げる。 突然、自分の中から声がして足が止まった。 いや、これは自分の声ではない。 今日の放課後、学校で聞いた最後の言葉だ。 今日、部活が始まる前に、結子は同級生と先輩数名に呼び出された。 囲まれて、次々に何かを言われたが断片的にしか覚えていない。 矢継ぎ早に放たれた、言葉の矢を思い出すには、あまりにも衝撃が大きすぎた。 あの時、誰か助け船を出してくれればよかったのにと思った。 「結子の話も聞こうじゃないか」と誰か助け船を出して、伸ばしてくれる指先さえあれば結子は逃げ出すようなことはしなかった。 毅然と立ち向かい、意見を述べることもできただろう。 けれど、結子はあの時、一人だった。 惨めで、悲しく、何度も帰り道で泣きたくなった。 (だから、私は助けよう) 津波のように押し寄せた怒りは、結子に踵を返させ、走らせる。
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