シノちゃんと私

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 小学生は刺激がいっぱいだ。一度だけ友人の誕生日会に参加したことがある。友達の家のテーブルには我が家では見たことがないジュースや菓子が並び、ホールケーキが出て来た時には私は驚いた。図書館で借りた絵本でしか見たことがない世界が、この世の中に存在するとは思わなかった。私は家に帰ってすぐに、母に友人の家での出来事を話したが、母は眉を下げるばかりだ。  誕生日会に感動をする私を、母は不憫に思ったのだろう。母はスナックのママに相談をし、店で私の誕生日会を開いてくれた。クリームたっぷりのホールケーキを囲み、顔を真っ赤に染めた男性客の野太い「ハッピーバースデイ」の合唱が嬉しくて、私は毎年、自分の誕生日が来ることが待ち遠しかった。  小学3年生の頃、同級生の女の子にちらりとスナックについて話をしたことがある。私はその時の相手の驚いた表情を覚えている。彼女は話を全て聞くと、真剣な眼差しで私の両肩に手を置き、言い聞かせてきた。  文房具は人から沢山貰う物ではなく、店に足を運び購入することが普通。誕生日のケーキは、洋菓子店で好きな物を選んで購入し、家で祝うことが一般的だと、諭すように語りかけてきた。さらには、スナックは大人が足を運ぶ場所で、私のような小学生が行く店ではないと語気を強めた。  彼女は私の家庭環境が「おかしい」とは言わなかったが、私はすぐに「自分は普通ではない」のだと気がついた。小学生の友人は、両親共に一般企業に就職しているか、母親はパートに出ている家庭が殆どだ。スナックに子どもを同伴させて、文房具を貰い、誕生日を店で祝う家庭はなかったのである。
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