祈りを捧げて

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祈りを捧げて

 誰にも気付かれることなくアレクと禁断の関係を続けたのだが、一年が経つ頃には次第にアレクが調子を崩し始めて、食欲も落ち、寝そべっていることが増えた。  病気ではないのかと家族は心配したが、医者に診せたところで恐らく分からないだろう。原因は明らかに人間の姿になる代償だが、空哉もそれに対する対処法は知らない。  しかし、このまま手をこまねいて最期の時を迎えるのを待つわけにはいかない。そして、新月の夜、アレクにそれを尋ねることにする。 「アレク、どうにか寿命を延ばす方法はないのか?」  アレクはもう体を重ねる元気もないようで、添い寝をしながら彼を見つめる。 「ないと思う。俺は化け猫とかとは違うし、元々普通の犬だから、人間になること自体、体に負担がかかる行為だって聞いた」 「それは誰から聞いたんだ」 「分からない。俺が空哉と人として交わり、愛し合いたいって願っていたら、夢の中で突然声がしたから。神様みたいなものかな?でも、最初の一回切りで、それ以来全然出てきてくれない」 「そうか……」  アレクの望みは、あくまでも人として自分と愛し合うことで、寿命を延ばすために人間になることを止めさせることもできない。そもそも、自分でコントロールできないから新月の夜だけなのだし、その神様みたいな存在にもう一度会えなければ、どうしようもなかった。  空哉が落ち込んでしまうと、アレクは弱々しく微笑んで、額にキスして言った。 「俺はこれでも十分幸せだから、これ以上は望まない。望んではいけないと思う。でも、叶うなら、来世は本当の人間になって、空哉の傍にずっといたい。その時は、空哉も俺を愛してくれる?」  真っ直ぐに、一心にアレクの愛情が注ぎ込まれてくるようで、目尻に涙が浮かんだ。 「当たり前だ。俺はもしお前がまた動物に産まれても、何に産まれても、愛するよ。必ずだ」  するとアレクはほっとしたように息をついて、柔らかい口付けをしてきた。  それから程なくして、アレクは天に召された。その日は、降り続けていた雨が止み、雲間から太陽の光が差し込んで、大きな天使の梯子が降りてきていた。それを見て、あの神様がアレクを迎えに来たに違いないと思った。そして、どうかアレクともう一度会わせてくださいと祈った。強く、強く。
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