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「すみません。
私、磨きますっ」
と花鈴は慌てて言ったが、
「素人に靴が磨けるか」
とすげなく言われてしまう。
「そんなことより、もっと田畑のためになることがあるぞ」
花鈴の手をつかんだまま、顔を近づけ、光一は言ってきた。
「就職して以来、俺が次々と見合いを押し付けられて困っていることに、田畑も胸を痛めている。
田畑のために、俺と結婚式の写真を撮ってやれ」
頭の中では、田畑という老人が、暗がりでお坊ちゃまのために、と一生懸命、靴を磨いたり。
職場で次々見合いを持ってこられて困っているお坊っちゃまを物陰から眺め、涙したりしていた。
私は老人に弱い。
そんなこんなで流されて、知りもしない田畑さんのために、見知らぬイケメン様と結婚式の写真を撮ってしまった。
そのあと、お金は断り、ドレスだけを持って帰った。
そして、ドレスは箱ごとベッドの下に突っ込み、あれから一度も開けていない。
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