数年ぶりに旦那様に会いました

15/89
前へ
/348ページ
次へ
   そんなこんなで、四月を迎え、花鈴は光一の居る会社に入社した。  知らない大人たちに囲まれ、新しく覚えることばかりの毎日。  神経をすり減らしながら過ごしていると、目の前の上司が仮の夫であることなど忘れそうになる。  ……しかも、向こうは綺麗に記憶から消し去っているかのように容赦ないしな。  そんなことを思いながら、花鈴はロッカールームに向かった。  ちょっと時間が空いたからだ。 「お疲れ様です~」 と言いながら入ったが、誰も居ないようだった。  しめしめ、と花鈴は自分のロッカーを開ける。  最上段の棚にそれはあった。  折りたたまれたクリーム色で、フカフカのブランケットだ。  花鈴は、それを手に取り、頬ずりをする。  ああ、気持ちいい。  (なご)むな~……。  常に気を張っている社内でも、このブランケットに触って目を閉じると、家のベッドに寝ているような気がしてきて、リラックスできる。  ホッと一息ついたそのとき、ロッカールームの扉が開く音がした。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4322人が本棚に入れています
本棚に追加