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疑われたくないからか。
この人もじいさんに弱いのか。
光一は手をつなごうとして、こちらに向かい、手を伸ばしてくるのだが、非常にぎこちない。
専務っ、余計に疑われますっ、と思ったとき、監査役の背後から常務の声がした。
「おやおや、皆さん。
お帰りですかな」
どっしりとした体格の、如何にも重役と言った風情の常務の登場になんとなくホッとする。
監査役が振り向いて話し出したからだ。
「では、失礼します」
と笑顔を浮かべ、光一が言うのに合わせ、頭を下げる。
背を向け、歩き出した瞬間、ホッとしていた。
横を歩く光一が、
「お前の車はどれだ?」
と小声で訊いてくる。
「こ、これです」
花鈴は、すぐ近くになあったクラシックな感じの大きな茶色い車を指差した。
「……可愛げのない車だな」
ボソリとそう言ったあとで、光一は役員の車が並ぶ場所に向かい、歩いていった。
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