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そのまま夕食までをそこで過ごした。
「自分ばっかり孫といて!私だって孫と過ごしたいんです!」
と、母に言われて、夕食は父がお寿司を取った。
今日と明日しか泊まらないから仕方ない…と思い、出来るだけ空の事は両親に頼む事にした。
夕食を終えて空を預けたまま、二階のかつての自分の部屋に真を案内した。
「お布団は置いてあるらしいから…。」
荷物を持ってドアを開けた。
(……懐かしい。)
ドアを開けると同時にそう思えた。
あれほど帰りたくないと思っていたのに、戻ってみれば何も怖い事も責められる事もなかった……ただ優しい顔と、空を包む笑顔と懐かしさだけだった。
「真?」
「んー?ここが水菜の部屋かぁ。」
真はキョロキョロしながら荷物を隅に置いた。
「お風呂、先に入れてもらおうね?お父さんじゃ空は怖いから。」
「大丈夫じゃないか?首も座ってるしお座りも出来るし、こんな機会ないだろう?」
「うーん……ちょっと不安だなぁ。」
と、水菜が言うと、ドアがノックされてほぼ同時に開く。
「ねえ、空ちゃんと一緒に真さんお風呂どうぞ?お風呂上がりはお父さんが面倒みると言っているから。空ちゃん、寝ちゃうでしょ?」
「あ、はい。じゃあ、すぐ行きます。」
真が返事をすると、母はドアを閉めて階段を降りて行く。
「ね?お父さんも不安なのよ?」
と、水菜は笑った。
着替えを手にドアを開けた真に水菜は言う。
「ありがとう。私を連れて帰ってくれて…。」
一人では、戻る勇気はなかったかもしれない。
「水菜が考えるほど、怒ってないと思ったんだ。
それだけだよ?じゃあ、お風呂、お先に!」
そう言って真はドアを閉めて出て行った。
(最低だったのに…私の中で評価はうなぎ登りだよ?)
真には感謝しかない。
ここを出て、辛い事もあって、そのおかげで真に会えた。
全てがそこに繋がるのであれば、辛い事も必要な事だったのだと思えた。
翌日は昼頃、弟の陸也が顔を出した。
就職して九州にいる。
たまに電話はあるが、姉の顔を見に来たと言うよりは、こちらも空だ。
賑やかに時間が過ぎる。
もうひとつ、真を褒めるとするなら、実家に来てからは一度もモバイルを出していない。
スマホは見てたけどそれは許可できる範囲内だ。
少し心配して聞いた。
「仕事、大丈夫?」
「ああ、幸人から定期連絡。何事もなく無事。」
それを聞いて水菜も安心した。
翌日は帰る前にお土産を買う予定で、家を早めに出て、駅に向かう事にした。
駅まで一緒に行くと言う父親を残してタクシーに乗った。
「はぁ…。駅まで行くー!の次は家まで行くー!かもしれない。」
ため息を吐き、水菜が言うと真も同意して笑いながら、
「仕方ないよ?可愛いんだから…空の罪だな?罪作りな男だな?」
と、空の頬を突いた。
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