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梨香を誘い二人で隣のビルの1階にある店にランチに行く事にした。
出掛ける前に倉田に声をかけた。
「では、お昼に行かせて頂きます。」
「はい。」
倉田がここで食べる様だと気付いた。
「おにぎりだけ?」
「はい。一人暮らしですし、節約です。」
「私も以前はそうだったわ。あ、そうだ、迷惑でなければこれどうかな?
持って来たけど、復帰してすぐだから、ランチの約束してしまって…。」
お弁当を出し、机の上に乗せた。
「良いんですか?」
心配しながら出したが、倉田が本当に嬉しそうな顔をしたので、水菜は安心して続けた。
「うん、良ければ…。大した物じゃないの。おにぎりはいらないわね、引き取るわ。おかずだけでも良ければ食べて?」
「ありがとうございます。以前、社長からサラダを戴いたんです。本当に美味しくて…嬉しいです。遠慮なく戴きます。」
(ああ、倉田さんにあげたのね…。)
あの日お弁当を開けて、サラダのタッパーだけ綺麗に洗ってあったので不思議に思った。
真がわざわざお弁当を食べ終えて洗う事はしない。
誰かに食べさせた…という事はすぐに分かった。
野菜が苦手な真の事だから、追求はしなかった。
ここで謎は解けた。
「じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
水菜を笑顔で見送り、倉田はお弁当の中身をビニール袋を出してそこに放り込むと、休憩スペースのゴミ箱に捨てた。
(休みの間も、取引先も社長もフロアのSEも!石原さん、石原さんて煩いのよ!やっと半年以上かけて、石原さん!て聞かなくなったのに帰って来ちゃうし…。仕事も覚えて上手く行ってるのに……。
口出されたら邪魔じゃない?今川さんも高橋さんも仲がいいんだし、社長が味方するんじゃ私には最初から勝ち目がないじゃない?)
倉田 芳佳は面白くなかった。
学生時代からチヤホヤされていて、小さいけど噂の人気IT企業に入社出来たのに、社長は結婚した後で自分には見向きもされなかったのだ。
最初は特にまぁ、仕事さえ順調であれば良かった。
(社長カッコいいし…優しいし?狙うのもありだよね?)
そう考えたのは、奥さんが妊娠して産休に入ると聞いたから。
でも社長は手強くて、やっと少し近付けた?と思ったのに奥さんは帰って来てしまった。
だから、面白くない…訳だった。
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