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システムBチームの仕事が無事に終わり、真が手伝う事もなく、時間に余裕が出来た真は社長室に籠もって新しいゲーム開発の日々になった。
『ピーピー』
「はい…」
『水菜、コーヒー薄め。』
「畏まりました。」
「ご機嫌悪そうですね?」
通話を聞いた倉田が言う。
水菜が帰宅する15時の20分前になると、必ず真はコーヒーを頼んでくる。
だからこの時間は水菜が通話ボタンを押す事にしていた。
「倉田さんにも苦労かけるわね?私が帰った後もコーヒーの催促はひどいんじゃない?」
水菜もため息を吐いて言った。
「んー?そうでもないですよ?帰宅する前にお持ちするくらいです。
没頭してみえるんじゃないでしょうか?通話もないですし…。」
「そうなの?捗っているなら、いいことだけど…。」
水菜は少し考えていた。
コーヒーを持って真の前に行き、静かに机の上にコーヒーカップを置く。
少し後ろに下がり、ひと呼吸置いてから、静かめの声で話しかけた。
「ご用は、ありませんか?なければこれで失礼致しますが?」
「うん…。お疲れ様。」
水菜の顔を見てコーヒーを口に持って行く。
(うん?何かが、足りない?何かがおかしい…。)
真の様子を見てそうは思うが、その何かが分からないので、そのまま帰ることにした。
「では、お先に失礼致します。」
一礼して階段に向かうと、後ろから、
「気を付けて帰れよ?」
と言う声が聞こえた。
当初は車で一緒に出勤し、一緒に帰宅、が、そもそも一緒に帰宅に無理がある。
真は送ってから戻る生活になる。
段々と水菜がタクシーで帰る日が増えて、これにも庶民の水菜には家計の無駄にしか見えない。
真が泊まる日もある。
そこで、朝は車で出勤するが、ベビーカーを乗せてもらい、帰りは歩いて帰る事にしたのだ。
ゆっくり歩いても30〜40分、買い物も出来るし、色々な物に興味を持ち始めた息子に景色を見せる事もできる。
何よりも忙しい中の息子と二人のゆったりとした時間だ。
毎日は苦労だけど、真もさすがに3日続くと、少し休憩も兼ねてと言い、送ってくれたりもするし、立花さんが帰るついでとか、出るついでと言い送ってくれる事もある。
同じく帰る梨香とタクシーを割り勘して帰ることもある。
周りの優しさにも助けられながら、子育てしながら働ける幸せを噛みしめる。
「水菜、帰り?」
「うん、梨香は?」
「上が熱出したらしくて、お迎え行って病院。下の子は幸人に頼んだ。
ほら、ここ7時まででしょ?幸人が帰りに連れて来てくれるって。」
「梨奈ちゃんのお熱かぁ…。高くないといいわね?」
「一応、8度って聞いたんだけど、上が風邪ひくとねぇ……。」
難しい顔で梨香が言う。
「……下も引くのよねぇ。」
言葉がハモって笑った。
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