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「じゃあ、倉田さん、お先に失礼します。」
「あ、石原さんは…例の話って聞きました?」
帰ろうとすると倉田に呼び止められた。
「例の?」
「社長です。」
「え?」
今、コーヒーを届けて帰りの挨拶をしたところで、水菜は目が点になり、そのまま聞いた。
「社長が、どうかした?」
「石原さんが帰宅する前にコーヒーを持って行かれるでしょう?その10分前に社長室に戻ってるそうなんです。」
「え?戻ってる?」
意味が分からない水菜は、倉田に聞き返した。
「社長、14時半前後ですかね。10分〜20分、毎日、空ちゃんに逢いに行ってるみたいですよ?帰る前に会いたい!とか言って。それで15時前には石原さんがコーヒーを届けるから、その前に社長室に戻るそうです。
やっぱり知りませんでした?保育士さんにも口止めしてたそうですし。
あ…私が教えた事は内密に……。」
「もちろん…。ていうか……はぁぁぁぁ……。」
水菜は大きくため息を吐く。
会いに行くなとは言わない。
覗く位はいいと思う。
けど、毎日、10分〜20分……社長が何をしているのだろう、と、水菜は頭を抱えた。
(どうしてやろうか? 怒るほどではないと思う。注意はするべきかな?
せめて毎日は禁止にして、保育士さんだって迷惑かもしれないし…。
うん。一応、保育士さんの意見を聞こう。迷惑なら辞めさせよう。)
「ごめんね?いつも気を使わせて…。教えてくれてありがとう。
じゃあ、お先に失礼します。」
「お疲れ様でした。」
秘書室を出て、保育室に空を迎えに行った。
同じく時短の主婦がお迎えに来ていた。
挨拶をして空を遊ばせるふりをしながら、お迎えの人たちが帰るのを待ち、保育士に声をかけた。
倉田の言う事は本当で、ここ2週間ほぼ毎日、長い時は30分、ここにいる事が発覚した。
「すみません、ご迷惑をお掛けしまして…。」
「いいえ。この保育園のオーナーですしね?不審者扱いも出来ませんし、ただ、空ちゃんがお昼寝中にも来て、ずっと見て居られても……ほかのお子さんが…その、怖がりますし…。」
「……ですよね?巨大な影が目を覚ましたらいるのですものね…。よく言っておきますので…。すみませんでした。では、失礼致します。」
空を抱えてベビーカーに乗せる。
「空?お父さん来てるって教えてくれないと!」
言ったところで空はまだ喋れない……。
はぁ…とため息を吐いて、水菜は家に帰った。
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